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ハングルはこんなに面白い! 〔9〕

筑波大学名誉教授 高橋 磐郎

最高の言語文字の可能性  〔9〕

二編 日本語をハングル表記したら

(6)外来語問題

韓国にも日本と同様外来語が数多くあります。だから日本での外来語のハングルにも韓国のものをそのまま借りれば事がすむと言えるかもしれません。しかし後で述べるようにそれにはいろいろ問題があります。

日本では外来語を仮名で表しますが、たとえばtiをティと書くのはまだいいのですが、ときにチと書いたりすることもあり、teapartyはチーパーチーとなってチンパンジーと間違えそうになります。

さらにtという子音で終わる語でよく出てくるpart timeを表すパートはtをトで表しているわけですが、これはかなり乱暴です。もう少し気を使う人はトゥと書いたりしますが、これも苦し紛れです。なお部品のことをパーツという時のツは、partsという複数形のtsを表しているので許せるとしましょう。Christmas treeをクリスマスツリーと書くときの”ツ”はtを表していて許せないのですが、長年の習慣上なれっこになっているだけです。

とにかく日本には子音を表す字がないのでこのような苦し紛れの表現になるのです。これに対してハングルには子音を表すパッチムがあり、子音止めの外来語も難なく表現できるはずです。ところが実際に韓国で使われている外来語のハングル表記は、その折角のすばらしさが生かされていないので、歯がゆくて仕方ないのです。

たとえばcardは가드と書かれているのですが、dという子音を表すのに드が使われています。dは子音ㄷだけでいいはずです。それをわざわざ母音ㅡを入れて드にしてしまっているのです。さらにcardは1音節なのに2つのハングル文字を使って2音節にしてしまっているのです。その意味で가드は二重の罪を犯しています。漢字表現のときあれほど厳守した1音節1ハングル文字の原則が脆くも崩れ去ったのです。何故ㄷをパッチムにして칻としないのでしょうか。こうすればこの二重の罪はいっぺんに解消されるのです。

この種の例は一杯あります。apart(아파트)、cake(케이크)などで、これらは아팥 、케잌としたらいいのです。一方computer (컴퓨터)、meter(미터)などは、音節数の一致なども含めて極めて適切な表記です。日本語のコンピューターやメートルに比べるとはるかに原語に近いのです。

このように良い例はいくらでもあるのでしょうが、さらに難点を挙げれば、fとrの取り扱いです。fがㅍで表されているのですが、これはphがfの発音をすることがきっかけになったのでしょうが、phはたぶんギリシャ語から来たもので、発音上はfなのでやはり無理があります。こういうときにはfそのものをハングル文字として取り込んでしまえばよいでしょう。そうしてfilm([※1])、knife([※2])、coffee([※3])などとすればよいのです。

日本人はr(アール)とl(エル)をごっちゃにしますが、韓国でもrはlと同じㄹで表します。ㄹはlとぴったり同じ発音ですが、rとは異質です。それでrもfの場合と同じようにハングル文字として取り入れれば、ring([※4])、rope([※5])と書けます。

(7)長音問題

英語などの辞書で見る発音記号で長音を表すのにコロン:が使われています。日本では公式な文字ではないでしょうが、─を字の上に載せて長音を表します。:は文の区切りなどに使われるので混同しますから、ハングル表記の長音表記には日本方式を使うことにします。たとえば、外来語tea partyなら[※6]となるわけです。─という記号は母音のなかにもありますが、そのときはいつも子音の下に付くので混同の恐れはないでしょう。

日本語では音声としては、長音と短音で意味が全く違うものが多いのです。個性─構成、余生─養成、都会─東海、不倫─風鈴など。しかし文字にするときは、たとえば、講のふり仮名はコウ、英はエイなどとなるので、長音の記号は不要です。

韓国では長音の発音があっても、字としては表記しないのです。たとえば재고(在庫)はチェーゴと発音され、재다(素早い)はチェーダと発音され、재を長音で発音しますが、재단(裁断)はチェダンと短音となるのです。

そこでお膝元の韓国にもこの長音記号─を逆輸入して[※7]고 、[※7]다などとハングルに長音記号を使用することを勧告したらどうでしょうか。

(8)固有名詞、外来語は書体を変えて

初心者がハングルを読むとき困るのは、固有名詞と外来語が出てきたときです。いくら辞書を引いても見つからないので途方に暮れます。日本では一般に文は平仮名で書き、外来語は片仮名で書きます。英語では固有名詞は頭文字を大文字にします。

ハングルにも明朝系と呼ばれる、いわゆる筆記体と、ゴシック系と呼ばれる活字体がありますから、一般文を筆記体で書くなら、外来語と固有名詞を活字体で書くようなルールを作ったらいかがかと思うのですが…。少なくとも日本語のハングル表記のときにはそうしたいのです。

(9)日本式ハングル、英語式ハングル

以上の諸節では韓国のハングルにない記号<、⊿、[※8]などを作ったり、原則を無視したルールを作ったりして、こんなことを勝手にやっていいのかという批判が起こるかもしれません。しかしこれは日本式ハングルとして日本人が使うハングルと考えれば許されると思います。

また、6節で考えたのは英語式ハングルであり、まえがきで述べたように、将来は全世界の言語をハングル化しようとするのであれば、フランス式、ロシヤ式、中国式といったハングルが作られる際には、各国の事情に応じて微調整していくことになるでしょう。

ハングルの組み合わせ構造の利点が損なわれない限り、こうした微調整は許されると思うし、またこれによってお膝元の韓国のハングルは微動だにしないのでご安心下さい。そしてこのすばらしいハングルを作られた世宗大王に深い感謝を捧げたいと思います。


※1:film、※2:knife、※3:coffee、※4:ring、※5:rope、※6:teaparty、※7:che、※8:wa