機関誌画像

ハングルはこんなに面白い! 〔10〕

筑波大学名誉教授 高橋 磐郎

最高の言語文字の可能性  〔10〕

三編 超文法

(1)文法の中心、用言の語形変化

二篇までは、ハングルの文字構造の話が中心でしたから、韓国語自身は全く知らない方にも解って頂けたかと思います。この三篇は、韓国語を勉強しようとして、複雑な文法に悩まされたり、辞書を引いても出ていない単語があって途方にくれたりしておられる方々の為に、何処を押さえればその悩みから解放されるかについてお話ししたいと思います。

ある言語を外国人が大人になってから覚えるためには、その言語の論理構造、つまり文法を知る必要があります。子供の頃は単純記憶、いわゆる丸暗記が自然に身についていますから、文法など不必要ですが、大人は構造的なとらえ方をしないと、言葉を憶える効率が極端に悪くなるのです。

文法の2大要素は、文中の語の順序や配列を問題とするシンタックス(syntax構文)と、語尾変化などを考えるパラダイム(paradigm語形変化)です。よく知られたように韓国語は語順が日本語と同じでシンタックスは考えなくてすむので、日本人にとってはパラダイムだけが問題となります。

このうち動詞や形容詞つまり用言がそれに続く依存名詞や語尾(助動詞的あるいは接続詞的役割を果たす品詞)と関連していろいろと変化する問題が、日本人にとって一番解りづらいので、ここではこの問題に絞って考えることにします。たとえば

原 形:작다(小さい)、읽(読む)、가다(行く)、서다(立つ)

丁寧語:작아요(小さいです)、읽어요(読みます)、가요(行きます)、서요(立ちます)

丁寧語:작습니다(小さいです)、읽습니다(読みます)、갑니다(行きます)、섭니다(立ちます)

過去形:작았다(小さかった)、읽었다(読んだ)、갔다(行った)、섰다(立った)

のように用言の原形(辞書にある形)はすべて다で終わりますが、その다を取り除いたいわゆる語幹をここでは一般にSで表すと、同じ丁寧語や過去形でも、Sの様々な特徴によって、それに続く依存名詞(今後依名と略す)や語尾がいろいろと変化するのです。この部分をここではTと表して、SとTの形で話を進めて行くことにします。

Sの特徴というのは、その最後の文字が開音(母音止)か閉音(パッチムあり)か、陽音陰音であって、これによってTが変化する、つまり語形変化はこの開・閉、陽・陰の二つの性質で決まるのです。

一般の文法書には、この語形変化の複雑な分類が長々と述べられていますが、ここではそれらを、次の2節で述べる縮約という操作を通して眺めると、極めて見通しのよい簡単な規則に纏(まと)めることができます。

なお以上のような語形変化の際に、パッチムによっては弱音化して脱落し、開音扱いになるものがありますが、これをここでは、弱音脱落と呼ぶことにします。ㄹやㅅ稀にㅎがその例で、とくにㄹは、この他リエゾン(音の繋がり)のため、付け加わることもあります。これらは語形変化というよりは、発音上の都合、いわゆる音便と考えたほうが解りやすいので、ここではその立場で話を進めます。

(2)縮約

二つの文字A、Bが隣接するとき、これらを纏めて一つの文字ABにすることを縮約というのですが、それが可能なのはBの中にㅇ(イウン)が、パッチムとしてでなく、空欄の記号として含まれる時と、Bが(ㅇの有無に関係なく)パッチムを持つ時です。前者の縮約を代入法、後者を置換法と呼ぶことにします。

代入法:AをBのㅇに代入し、Aの母音とBの母音の結合で決まる母音をABの母音とします。この結合は次のような何通りかの場合に分けられます。

(イ)A、Bの母音が合成可能(一遍3節、母音合成ネットワーク図参照)なら、その合成母音をABの母音とします。
사이→새、서이→세、오아→와 …①
A、Bのどちらかが合成母音を持つときは、その成分と合成可能な相手があれば、それとの合成をABの母音とします。たとえばA=나 、B=의なら、BのうちㅣがAの母音ㅏと合成可能なので
나의→내.. …②
このとき合成不可能な相手は無視されます。
(ロ)包含関係:A、Bの母音のうちどちらかが合成母音で、相手の母音をその成分として含む場合には、その合成母音がABの母音となります。
와아→와 …③
特別な場合として、A、Bの母音が同一である場合はそれがABの母音となります。
가아→가、갔아→갔、그으→그 …④
(ハ)辞書式順位:(イ)、(ロ)に該当しない場合、母音の辞書式順位(注)の高いものが残り、低い母音は消えます。
우을→울、크어→커、내어→내 …⑤
ㅜはㅡより、ㅓはㅡより、ㅐはㅓより順位が高い。

置換法:Aが開音でBがパッチムbを持つとき、bをAのパッチムとしたものをABとします。
このときb以外のBの成分は消えます。
저는→전、가습→갑、가은→간 …⑥
Aが開音でないときでも、ㄹやㅅのようなパッチムを持つときは、これらが弱音脱落します。
알습→압 、것을→걸、랄은→란、것입→겁 …⑦

縮約は文字、従って文を簡潔にします。文の簡潔化は情報処理や思考の簡潔化を促し、文化の発展に貢献します。このような縮約はまさにハングルの組合せ構造のたまものであり、他の言語文字では全く不可能な超技巧です。

しかしこの利点は、外国人がハングルを学ぼうとするとき頭痛の種ともなります。縮約によって文字の原形が変化して、辞書を引いても出ていない単語があるからです。例えば④の갔は辞書の見出しには出てきません。だからこそ縮約の技巧をしっかり学ぶ必要があります。

またこの縮約はこの三篇の主目的である用言の語形変化の際に最もよく利用されますが、その他の場でも頻繁に出てくる文字の配列などを簡潔に纏めたいときなどにもよく使われます。

なお見かけ上、上記のルールに合わないものもあります。1字がそっくり脱落して縮約というより省略というべきもの、リエゾンの為ㄹ音が加えられる場合など。音便や習慣的な言いまわしなど、特に
히어→혀、시어요→셔요、펴어→펴
などは代入法①に属しますが、ㅔとなるべきものがㅕに変化したもので、この変化は縮約以外の場合でもしばしば見られます。

(注)母音の辞書式順位:単母音の順位は
ㅏ ㅑ ㅓ ㅕ ㅗ ㅛ ㅜ ㅠ ㅡ ㅣ
であって、これらと合成母音がからんできたときの順位は、まず縦型母音各々とㅣとの合成で
ㅏ ㅐ ㅑ ㅒ ㅓ ㅔ ㅕ ㅖ ・・・ⓐ
の順位が決まり、次に横型の母音各々を出発点として、これと合成可能なものがⓐの順で並ぶ。(ㅛ、ㅠはどの母音とも合成できないので単独で並ぶ)
ㅗ、ㅘ、ㅙ、ㅚ、ㅛ、ㅜ、ㅝ、ㅞ、ㅟ、ㅠ、ㅡ、ㅓ、ㅣ ・・・ⓑ
こうしてⓐにⓑが続く形で21個の母音の順位が決まる。