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お日さまニコニコ毎日前進![1]

エッセイスト 櫻井ひろみ

人生相談に見る男と女、今昔

「女は深く見るが、男は遠くを見る。男にとっては世界が自分で、女にとっては自分が世界」(グラッペ:ドイツ劇作家)

男と女はいつも惹かれあい、ときめき、涙して、そしていつしか「結婚」という舞台のうえで、シナリオなき人生ドラマを演じるのです。表舞台であれ裏舞台であれ、いつも主役は自分、黒子になれない宿命を背負いながら、時代を生き抜いていくのです。

ありふれた表現をすれば、男と女は未知との遭遇です。互いに求め合い、一つになりたいと願いながらも、永遠に理解不能! それが男と女のシナリオなき人生ドラマをバラエティーに富んだものにしてくれるのかもしれません。

今月号からスタートしましたこのコーナー。コーヒーカップを片手に一息つく皆様に、ちょっとだけ哲学していただくコーナーです。いつもと違うコーヒー味になればと願いつつ……。

昨年10月、読売新聞の「人生案内」100周年を記念したシンポジウムがありました。タイトルは「日本人の悩み100年」。夫婦、親子、嫁姑、恋愛、男と女…、家庭面の隅に差し込まれている小窓から、その時代の男と女の心模様や、家族の風景を数十行の活字で語りかけてきます。

パネリストの言葉を借りながら、ちょっとだけ時代の風景を覗(のぞ)いてみましょう。

まず、相談内容の大きな変化は1980年代からのようです。夫婦や親子といった家族関係の相談事から、自分自身の性格や外見の悩みについての相談も増えてきたとのこと、時代の豊かさと共に、自分への関心、自分の人生をも見つめるゆとりが出てきたとも言えます。

また、悩み相談を受けた回答者の回答内容も随分変化したようです。離婚相談に対して以前は、まずは妻の心に添いながらも最終的には忍耐を求めることが普通でしたが、80年代以降はきっぱり離婚を勧める内容が格段に多くなったそうです。

一つには人生90年時代に突入してしまい、退職後の生き方がわからない。亭主元気で留守がいい!の続編を生き抜いていくには台本もなくひたすらアドリブの舞台、壮大な実験がスタートした時期とも言えるでしょう。

もう一つは女性の社会進出。離婚しても夫のお世話にならずとも十分に生きていける女性たちが出現し、お金で縛られる必要がなくなった脱専業主婦層に、夫たちがタジタジになったというところでしょうか。「自分には落ち度がないのに、何だよ〜」と言っても後の祭りなのです。大声や暴言を吐こうものなら、今やDVの大合唱、時代の流れについていけない男たちが、舞台袖で苦虫をつぶした顔で舞台を見つめている姿が目に浮かびます。

一方で、晩婚・非婚化が急速度に進む今、自ずと相談内容も変化してきています。以前は、子供が老後の親をどうやってサポートしていくかという相談が多かったわけですが、今ではパラサイトシングルと叫ばれてから久しく、悩みは子供の結婚を心配する親が増えているようです。子供が30代、40代なら、まだ一筋の希望は持てますが、50代、60代の子を持つ親の悩み相談も増えており、時代の変化を感じます。

また、いつの時代も変わらないのが夫の浮気。これは不変のテーマなのか、見る側からすれば他人事のように面白く見ていることもできますが、舞台の当事者にとっては次の自分の行動すら予測の出来ない修羅場劇場の開幕になるのです。そして、時には幕引き役も巻き込まれ、いつまでも幕が下りないエンドレス劇場もしばしばです。

90年代の後半からはネット社会の出現、携帯、メール、スマホ、SNS…。若者たちを取り巻く環境は大きく変化しました。もちろん、男と女の世界も異次元の世界に突入しています。告る!のもメール、別れもメール、告ったら3か月以内に性関係に持ち込めなければヤバイらしい…。ロミオとジュリエットの恋物語など、今やおとぎ話。今の愛のかたちに昔の面影など微塵も感じられません!と嘆く投稿にもうなずけます。

時代の流れは、確かに男と女の関係に微妙な変化をもたらしてきました。世代が変われば、時代の風もおのずと変化してきます。親子三代の家庭があるなら、その家庭には未体験ゾーンともいえる確かな時代の壁が同居することになります。

しかし、いつの時代もやはり男と女、決して変わらない世界もあるのではないでしょうか? 冒頭の格言、男は夢やロマンを語り、小さな成功体験を力に生きるもの、一方で女は洞察力が深く、直観力はいつもフル回転しています。それは顕微鏡以上に正確かもしれません。そんなに違うのに、男と女は引き合い、求め合い、そして、一つになろうとするのです。そこに永遠の幸せを求めて……。

若い男女から、表舞台の主役を演じる男女、後ろを振り返ることなく走り続けて、ちょっと一息ついている男女、そんな「男」と「女」が織りなす時代の風景。

「男と女、今昔」は、こんな男と女の違いを見つめながらも、その違いこそが時代を超えても変わらない不変の真理と受け止め、男と女のより良き幸せをちょっとだけ考えてみたいのです。コーヒーの香りを味わいながら……。


※参考: 人生案内は1914年(大正3年)5月2日、「よみうり婦人付録(現在のくらし家庭面)」で「身の上相談」の名称で始まった。その後、後継企画の「悩める女性へ」を経て、戦後の49年11月27日、「人生案内」の名称で再開し、男女背中合わせの現在のデザインとなった。(読売新聞より)