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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

最も豊かで明るい自然の彩りに包まれる1年で最も過ごしやすい季節に

天高く澄み渡った青空の下、ものの輪郭や秋の色がくっきりと映る季節である。秋風が頬に快く感じられるようになると、深まる秋の気配を楽しめるようになる。5月とともに1年でいちばん過ごしやすい季節は、最も豊かで明るい自然の彩りに包まれるから。

近くの高級マンションの垣根に、やわらかな緑葉とそのつけ根に小さな紫の玉をいっぱいにつけた枝のような小さな木を見つけた。それが「紫式部」だと教えてくれたのは、田舎育ちでいけばなの心得のある老妻である。『源氏物語』で平安の昔、宮中の雅(みやび)の世界に誘(いざな)う作者の名をつけたのは、美しく品のある実の色を愛(め)でたのであろう。

紫や青色の花が庭や部屋を秋色(しゅうしょく)に染め、華やかな中でも少し淋しくもある秋を演出してくれる。ききょうは秋の七草でもあり青、りんどうも青、ホトトギスは紫、平安時代から薬用や観賞用に親しまれたという紫苑(しおん)(=別名・十五夜草)も紫、小さな赤紫の実をつける吾亦紅(われもこう)などに、それをとらえ風雅を楽しむ人もおられよう。

実りの秋、味覚の秋はもっとたしかな実感で、秋はおいしい。実りは稲であり、果実であり、茸(きのこ)である。リンゴやイチジクは旧約聖書の時代からあり、リンゴは明治初期、イチジクは17世紀に日本に伝えられた。リンゴはそのあと品種改良を重ね、日本のリンゴは大きくて美しく世界でもっともおいしい味の特産物となった。私は米国やスペイン、ウクライナ、韓国でその国のリンゴを食べたが、日本のリンゴ以上のものにお目にかかったことはない。

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秋の果物には他にも柿や栗、山形のラフランスに代表される西洋梨、石榴(ざくろ)などがある。そのままでは食べられないが、「かりん酒」にすると咳止めやのどを滑らかにするかりんもある。ほかにも徳島の酢橘(すだち)はビタミンCいっぱいの小さなかんきつ類で、旬の秋刀魚(さんま)など焼き魚にギュッと絞ると、さわやかな酸味と香りがマッチして相性がいい。

茸の王様である松茸(まつたけ)との相性も抜群で、土瓶蒸しにも欠かせない、とものの本では紹介している。秋がパアッと香るのは分かっているが、こちらはちょっと試しにとはなかなか手が出ない。

〈実むらさき 老いて見えくる ものあまた〉吉野義子(よしのよしこ)