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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

吉川英治が好んだ「吾以外皆吾師」を思い出させたノーベル賞受賞の大村智氏の言葉

今年も日本人ノーベル賞受賞者が出て歓喜の美酒に快く酔った先月に続き、授賞式の行われる師走10日まで、深まる秋色の彩りの中でその余韻に浸れる霜月(しもつき)11月である。

〈ノーベル賞週間〉初日の10月5日に医学・生理学賞に決まった大村智・北里大特別栄誉教授(80)は、この部門では3年前に受賞したiPS細胞の山中伸弥・京大教授以来で3人目となる。続く6日には梶田隆章・東大宇宙線研究所所長(56)の物理学賞受賞。この部門は、昨年の青色発光ダイオード(LED)開発者の赤崎勇・名城大教授ら3人に続き2年連続である。日本人の自然科学分野の世界的業績に与えられた最高の栄誉を称え、ともに喜び、大いなる誇りとしたい。

別に日本人の受賞続きで言うのではないが、いつも感心するのはノーベル賞選考がよく行き届いていることである。梶田氏の受賞はこれまで毎年、有力候補にノミネートされてきたから特に驚きではない。学界の定説を覆して、質量がないとされてきたニュートリノ(素粒子の中でも最微細な粒子の一つ)に質量があることを観測し実証した(「ニュートリノ振動」の発見)。

こうした研究には、巨大な実験施設と国の研究支援体制が欠かせない。梶田氏自身が「何かすぐに役立つようなものではなく、人類の知の地平線を拡大するような研究を、研究者個人の好奇心に従ってやる分野。純粋科学にスポットを当てていただき、非常にうれしい」と語るように、基礎科学への深い理解、長い目の評価が求められるからである。

大村氏は、1979年に伊豆のゴルフ場付近で採取された土に含まれていた微生物の放線菌から抗生物質「エバーメクチン」を発見。これを人間に有害な線虫などの神経を麻痺させる特性を利用して、アフリカや中南米の寄生虫による感染症特効薬につなげた。米国の製薬大手メルクとの協力で熱帯域に住む10億人もの人々を失明などから救ったのだ。

こうした業績から受賞資格は十分だが、今では地味で目立たない研究分野。脚光を浴びる研究成果を引っさげた有力候補が目白押しの中での受賞である。改めて同賞選考の確かな眼に感じ入る次第である。

それにしても記者会見での大村氏のコメントは含蓄深い。「日本には微生物を使いこなし、世の中のためにしてきた伝統がある。微生物の力を借りて少しでも何かできないかと絶えず考えてきた」。定時制高校教師の時には、手に油を付けたまま勉強に来る生徒を見て「(自分も)もっと勉強しなければ」と自問したと言う。微生物や生徒から学んだという姿勢に、吉川英治が好んだ言葉「吾以外皆吾師」を思い出したのである。