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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

新年は日本とトルコの友好の絆のルーツを語る合作映画『海難1890』から

東映の試写室で見た作品だが、劇場の大画面でもう一度、鑑賞し心洗われた気持ちで新年をスタートしたい。そんな思いにさせられたのが日本とトルコの友好125周年を記念して製作された日土合作映画『海難1890』(田中光敏監督、東映系で公開中)である。

エルトゥールル号

トルコの人々が大変な親日感情を持っていることはよく知られているが、その大きな基(もとい)となったのが明治23(1890)年9月に和歌山・串本町沖で台風により遭難したトルコ軍艦エルトゥールル号の沈没事故だ。死者500人を超える世界最大規模の海難事故となったが、地元村民の命懸けの救助で奇跡的に69人が助かった。トルコの人々がこのことをよく知っているのはトルコの教科書が採り上げているからである。

それから95年後の昭和60(1985)年3月に、イラン・イラク戦争下のテヘラン空港で、帰国便のあてがつかず立ち往生する日本人200人余に、今度はトルコの人々が救いの手を差し伸べた。自国が差し向けた救援機の座席を譲って助けたのだが、日本人の多くがこの30年前のトルコの恩をよく心得ているとは言えまい。

約1世紀の時間と9000キロの距離の隔たりを超えて結ばれた二つの史実を残したのは、両国の名もなき人々の素朴な善意である。田中監督は、目の前に困っている人がいたら見返りを求めず助ける、という人々の真心をそのままのドキュメンタリータッチでリアルに描いた。

荒波にもまれるエルトゥールル号の遭難シーンなど特撮やCGを駆使したリアルな描写も、圧倒的な迫力で迫るが、俳優陣もそれに押されない演技で存在を示した。エルトゥールル号乗組員の治療に献身した村の医者・田村(内野聖陽)やその助手ハル(忽那汐里)が、古き良き時代の素朴な村人を熱演・好演している。失意に沈む海軍大尉・ムスタファ(ケナン・エジェ)と国境を超えた絆で結ばれていく様子には、つい引き込まれ熱い思いがたぎってくるのである。

友好○○年とか国際合作をうたう大作とかは、大味になったり説教くさいものになりがちである。田中監督は出演人にこんな訴えをしたという。「我々が描きたいのは『伝説に弱者あり』というように、名もなき人たちの善意、目の前に困っている人たちがいたら助ける、その民衆たちの熱い思いです。それが伝わらないとこの映画は成功しない」と。