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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

軽井沢バス転落事故や冷凍カツ転売事件は昨年の企業不祥事に連なる日本社会のモラル劣化の象徴

コブシの花

「1月往(い)ぬる、2月逃げる、3月去る」という。月の名に頭韻を踏んで冬から春へ過ぎ行く月日の早さを言い表すのだが、今年もはや3月を迎える。3月は旧暦で弥生といい、だんだんと和らぐ陽光の下で草木が芽吹きだす春の息吹を実感する月である。

桜の枝先がほんの少しふくらみを見せ始めるのに先がけて、コブシの白い花がパッと広がる風景が楽しめる季節でもある。池波正太郎の時代小説に、そんな辛夷(こぶし)の花が印象深い風景が出てくる。

「翌々日の朝になって、笹之助は正式に武田館へ呼び出された。/その日も春うららかな好日で、穴山屋敷の西門を出ると、濠をへだてた彼方の石垣の上に、辛夷(こぶし)の花が青空を背負って、白く浮いて見える。」(『夜の戦士』〈上〉川中島の巻)角川文庫

どこか長閑(のどか)な、そして明るい春を謳歌する一方で、今年に入って、日本では根底から考えなければならない事件・事故が起きている。一つは死者15人(運転手2人を含む)、重軽傷者26人をだす大惨事となった1月15日未明の軽井沢スキーツアーバス転落事故である。もう一つはその少し前の11日に発覚した、メーカーが廃棄した冷凍カツが流通市場に横流しされ、消費者の口に入っていたという不正転売事件。

バス転落事故で亡くなった乗客13人は、全員が未来に無限の可能性を持った学生たちであったことが沈痛な気持ちを一層深くしたが、その後に分かってきたのは東京のバス運行会社の杜撰(ずさん)かつ違反まみれの運行実態である。安全運行に必要な基準額を下回る料金での運行、運転手の過労運転・健康診断などの未実施、書類不備、出発前点呼なし等々、およそバス運行会社の体をなしていなかったのだ。

愛知県の産業廃棄物処理会社と岐阜県の製麺業者による廃棄カツ横流しの方はもっと酷(ひど)い。その後、冷凍カツだけでなく他メーカーの廃棄処分味噌など108品目が不正転売の可能性が高いとされ、いまも捜査中だ。ゴミが商品に変わってスーパーなどの店先に並んだ闇の手口が徹底的に解明され、業者に厳罰を下した上で再発防止を徹底すべきである。

これらの事件は東芝の不正会計事件、横浜の大型マンション傾斜問題から発覚した旭化成子会社による施工不良とデータ改ざん、東洋ゴムの免震ゴムデータ改ざんなど昨年連続した衝撃的事件の延長線上にあると深刻に憂慮する。どれも日本社会の著しいモラル劣化を象徴しているからだ。