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お日さまニコニコ毎日前進![16]

エッセイスト 櫻井 ひろみ

「長寿時代」に見る男と女、今昔

人は誰でも健康長寿を願います。そのために健康食品や栄養・美容サプリメントも雨後のタケノコのように店頭に出現してきます。夫婦にとって長寿はほんとうに幸せをもたらしているのでしょうか? 近年高まる熟年離婚、そこまで行かなくても家庭内離婚状態の悩みは、多く聞こえてきます。

日本人の平均寿命はずいぶん伸びてきました。人類学者によると、日本縄文時代の先祖の寿命は平均15歳、最長でも30歳未満という説もあります。医学が未発達でしたから乳幼児の死亡率も高かったでしょうし、狩猟や農耕で生き延びていても、厳しい自然環境の中で食料事情も決して安定はしていなかったかと思われます。

ということは、恋愛に関して言えば(恋愛などという甘い言語はなかったでしょうが)夫婦になっても、その関係は長くて15年くらいで終了していたということです。「君を永遠に愛するからね!」も、「いつまでも添い遂げようね!」も、虚しい言葉であり、今生きることが全ての時代だったと想像できます。恋愛感情は15年も続けば十分だったのでしょう。

その後、寿命はどんどん伸びてきて、終戦直後で日本の男性の平均寿命は50歳、女性は54歳でした。そして21世紀、今や誰もが知る世界最強長寿国になり、男性80歳、女性86歳を超えています。高度経済成長を通過して食生活が豊かになり、医療も充実した今、平均寿命はますます上昇しています。

つまり、結婚してから50年以上は一人の配偶者を愛し続けなければならなくなったということでもあるのです。恋愛なんてそんなに続くもんじゃないよ…というお考えの方にとって、50年は何と長く苦痛なことでしょうか。結婚は、恋愛感情があろうが、なかろうが、絶対に異性とつきあってはいけないという制度なのです。50年間、一人の人を愛し続ける選択です。愛すること、愛されることを諦めても、そのまま長い時間、夫婦関係を維持しなければならないのが結婚なのです。

結婚後がず〜っと長くなってしまった今、結婚当初の「ときめき感」が与えてくれていた幸せ感覚のみにしがみついていると、いつか足元をすくわれてしまいます。人間は幸せにもすぐ慣れてしまう生きものです。慣れるとそれが普通になり、次の幸せへの欲求や要求も高まってきます。夢も満たされたら、それが普通になるのです。

「女は男の可能性を買い、男は女の旬を買う」と言われます。結婚されている皆様、結婚当初を思い返してください。永遠の伴侶の選択において、判断基準はなんといっても「性格」でしょうが、それにも劣らず女性は男性の「収入」が大きな判断基準となったと思います。かりに、結婚が男性30歳とするなら、男性の収入ピークはそれより20年は後の50歳前後となるのでしょうか。だから、女性は「男性の可能性」を買っているということになるのです。

一方、男性といえば、言うまでもなく今、目の前の女性が気に入る女性かどうか、美人かどうか、イケてる女かどうかで決定です。(もちろん「性格」も大切な判断基準にされているということも否定はしませんが…)

つまり、「女の旬」を買うため、甘い言葉とささやきで頑張るのです。結婚した時が女性の最高の瞬間となるため、女性は男性目線の中で「美」を大切にせざるを得ないのです。女性が永遠の美を欲しがるのもご理解いただけるでしょうか?

しかし、現実は厳しいものです。縄文時代の15年恋愛説ならなんとかなりますが、50年も「旬」を保つのは女性にとっては無理難題と言えます。それでも「美」への追求が絶えることはありません。

ギリシャ神話にミダス王のお話があります。ミダスは王様でしたが、ある時、半獣神シーレーノスを助けたご褒美に何でも望みをかなえてやると言われ、「自分の触れるものを全て黄金に変えてほしい…」というミダスの願いを叶えてやることにしました。

しかし、ミダスはすぐに過ちに気付きました。パンも飲み物も自分が触れた瞬間に黄金に変わってしまうため、何も食べられない。その上、誤って愛娘まで黄金に変えてしまったのです。泣く泣く魔法を解いてもらった欲ボケの王です。

「女の旬」は時間と共に失われます。男は入り口が「女の旬」であっても、50年ず〜っと妻に「女の旬」を求めるとするなら、ミダス王と同じ運命をたどることになります。女は家庭に入れば主婦であり、子供ができれば母にもなります。女の魅力は「美」のみではありません。家事に発揮される女性の実力、育児に見える女性の魅力、孫に注がれるおばあちゃんの微笑み。女性の魅力は年輪と共に積み重ねられ変化していきます。

もちろん、男性も同じです。50歳前後に期待したほどの収入はないかもしれません。女性はリスクを背負って結婚をスタートします。それでも男と女は「夫婦」という摩訶不思議な関係をお互いに成長させていくのです。その醍醐味を楽しむのが「結婚」のおもしろいところなのでしょう。

「結婚後の人生が長すぎる」と嘆かずに、年輪を楽しむ長寿時代に万歳です!