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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

〈ノーベル賞週間〉を前に昨年指摘された日本の研究レベル低下を憂慮する声について

さて、今年は誰が選ばれるのかな !? 今月上旬は、人類に恩恵をもたらした発明や発見に与えられる最高の栄誉ノーベル賞受賞者が発表される〈ノーベル賞週間〉である。

昨年は2日連続で日本の科学者が栄誉に輝いた。生理学・医学賞の大村智氏(北里大特別栄誉教授)は、土中の微生物から発見した物質から、寄生虫による感染症治療法の開発が受賞理由。根気強く土の採集と分析を続け、目利きの発見がアフリカなど途上国の人々を病から救ってきたのだ。物理学賞の梶田隆章氏(東大宇宙線研究所教授)は学界の常識を覆して、質量がないとされてきたニュートリノ(物質を構成する素粒子の中で最微細な粒子の一つ)に質量があることを観測で実証。壮大な人類の知の地平線を切り開いた。

一昨年は青色発光ダイオード(LED)の開発者である赤崎勇氏(名城大教授)、天野浩氏(名古屋大教授)、中村修二氏(米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授)の3人が、一挙に物理学賞を受賞した。

ノーベル賞の話題になると、自分で獲得したのではなくとも、オリンピックで日本選手が金メダルをとるのを喝采するのと同じように楽しく、心が躍る。特に前記2部門に化学賞を加えた科学3部門では戦後、その国際的評価の選考が公正で、過去には日本ではノーマークの地道な研究業績も見逃さなかったケースもあり、よく行き届いたものだと思うからだ。

日本は昨年までに、自然科学3部門で21人の受賞を数えるが、特に2000年からは16年で16人の受賞で、米国に次ぐ2位。毎年1人が受賞となる目覚ましい受賞ラッシュだが、単純に喜んでばかりはいられない。

昨年の複数受賞のあと、新聞社説などでは日本の研究レベル低下を憂慮する指摘も出ているからだ。日経は「気になるのは多くの受賞業績が1980から90年代の成果である点だ。足元では日本発の論文数が相対的に減るなど、研究開発力の低下をうかがわせるデータもある」(社説10月7日)と指摘。産経は「大学や研究機関では、短期的な成果を求めるあまり、研究の『独創性』『多様性』が損なわれる副作用が指摘されている」(主張・同7日)、毎日も「(成果主義が強まった結果)地道で独創性のある研究がしづらい環境になっている恐れがある」(社説・同6日)などと性急な成果主義の弊害に言及した。

数学者の藤原正彦氏はすでに一昨年「近頃はグローバリズムとやらで拝金主義がはびこり、費用対効果や手っ取り早い成果ばかりが叫ばれるようになった。ノーベル賞は20年以上前の日本の産物であることを忘れてはならない」(「週刊新潮」10月30日号)と警鐘を鳴らしているのである。