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芸術と家庭・・・音楽編

吉川鶴生

交響曲は人生であり、家族の姿

管弦楽の王座にある交響曲の世界

オーケストラ

わたしたちの人生には栄枯盛衰、喜怒哀楽があります。音楽にも同じように多彩な曲調を流動変化させて、ひとまとまりにした音楽が、18世紀にほぼ完成されました。よく知られた古典派音楽、交響曲の世界です。交響曲(シンフォニー)は、小説で言えば、長編小説を読むのに似ていると言えるかもしれません。通常、第1楽章から第4楽章まであり、それぞれの楽章が緩急を織り交ぜて、起承転結のような展開をもっていますので、非常に豊かで広がりのある音楽世界となっています。

もっともよく知られている交響曲のチャンピオンはベートーベン(1770−1829)の交響曲第5番※1でしょう。通称、「運命」と呼ばれていますが、非常によくできた構成で、30分あまりの時間を至福の高みに導いてくれます。ハイドン(1732−1809)は108曲もの驚くべき数の交響曲を残した、いわば、交響曲作曲家と言ってもよい顔を持っています。彼の作品の中で名曲の誉れ高いのが、交響曲第94番「驚愕」※2という作品で、それぞれの楽章に見事な表情があり、とてもよくできています。

モーツァルト(1756−1791)の交響曲第40番※3は、言わずと知れたその流麗華美の颯爽(さっそう)たる曲調によって多くの人々の耳に焼き付いている名曲です。まさに天才作曲家の成せる作品と言えます。シューベルト(1797−1828)は交響曲第8番「未完成」※4を残していますが、力強い重厚な響きがあり、歌曲において見せた才能とは一味違う音楽を書き上げ、多くの人々に愛される名曲です。ベルリオーズ(1803−1869)は、有名な「幻想交響曲」※5を作曲しましたが、各楽章に標題を付けて、文字通り幻想的な交響曲に仕上げました。「ハムレット」劇の中でオフィーリアを演じた女優ハリエット・スミスソンに熱愛したベルリオーズが、まるで錯乱状態に陥ったかのような恋の幻想の中で作り上げた作品です。チェコの作曲家であるドボルザーク(1841−1904)の交響曲第9番「新世界より」※6は、その勇壮無比、華麗飛翔、歓喜乱舞の曲調によって、聴く者を魅了します。アメリカ大陸が夢と希望の新世界へと大発展していくイメージが彷彿(ほうふつ)と湧いてくるのです。

人生は交響曲のようなもの

交響曲に聴き入る時間は、短くて20分、長ければ60分、70分というようなことになります。管楽器、弦楽器、打楽器などが壮大な編成で奏でる音響の総和は、人の魂を深く、強く、揺さぶらないではいられない神秘的な感動を包み込んだ天からの贈り物と言ってもよいでしょう。多くの著名な作曲家がほとんど例外なく取り組んだ交響曲の世界、その魅力は、歓喜と悲壮、飛翔と沈潜、軽快と重厚、緩と急、などの音の展開が、人生の様々な局面で経験する喜怒哀楽の感情と相応するものであり、その意味で、人生は交響曲に似ていると言えるのかもしれません。

母親の優しさを持った曲調、父親の威厳で迫ってくる調べ、子供たちが戯れる楽しさを持った軽やかな響き、家族の中の様々な人間模様が、人生の様相として伝わってくる、そういう多彩な音楽性を備えた交響曲という形式は、人間の感情を縦横無尽に揺り動かして感動を与えてくれる音楽の最高形式であると言っても過言ではありません。何度も何度も繰り返し聴いても飽きがこない名曲の数々が、癒しの力となり、私たちの人生に、大きな力を与え、希望を与えてくれるのです。

家庭を交響曲に表す

リヒャルト・シュトラウス(1864−1949)は、「家庭交響曲」※7を作曲し、自身の家庭の様子を交響曲として表現しました。

夫の姿、妻の姿、子供の姿、叔父、叔母の姿というように、それぞれの性格や家庭内での様子を交響曲として描写したのです。とても楽しい曲に仕上げられています。リヒャルト・シュトラウスはナチへの協力者というレッテルを貼られることが多いのですが、自分の息子がユダヤ人女性と結婚していたために、家族を守るためにナチに協力したという見方があり、真相は分かりませんが、どうもその可能性は高いと言えるかもしれません。何しろ、「家庭交響曲」を残したくらいですから、家族に対する思いは非常に強かったと見てよいでしょう。これらの例からも言えるように、「交響曲は人生であり、家族の姿でもある」と結論したいと思います。

交響曲に耳を傾け、家庭を平和に保つ人生を生きる全ての人々に幸あれとお祈りいたします。

文中で紹介されている曲は以下のサイトから聴くことができます。
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  1. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン 交響曲第5番 ハ短調 作品67
    Beethoven - Symphony No. 5 (FULL)
     http://www.youtube.com/watch?v=6z4KK7RWjmk
  2. フランツ・ヨーゼフ・ハイドン 交響曲第94番 ト長調 Hob.I:94
    J. Haydn - Hob I:94 - Symphony No. 94 in G major "Surprise" (Bruggen)
     http://www.youtube.com/watch?v=PhxZhDV9KHM
  3. ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト 交響曲第40番 ト短調 K.550
    モーツァルト作曲 交響曲第40番第1〜4楽章全曲
     http://www.youtube.com/watch?v=HNVEb7izz3U&t=52s
  4. フランツ・シューベルト 交響曲第7(8)番 ロ短調D759『未完成』
    シューベルト作曲 「交響曲第8番 未完成」
     http://www.youtube.com/watch?v=qR6A5OOVh2g
  5. エクトル・ベルリオーズ 幻想交響曲 作品14
    Hector Berlioz - Symphonie Fantastique
     http://www.youtube.com/watch?v=ewoAW-Zyuj8
  6. アントニン・ドヴォルザーク 交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』
    Antonio Dvorak Symphony No 9 E minor(Full)
     http://www.youtube.com/watch?v=nSd1ye8l4RE
  7. リヒャルト・シュトラウス 『家庭交響曲』 作品53
    Richard Strauss - Symphonia Domestica, Op. 53
     https://www.youtube.com/watch?v=zvymcR85HPY