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日本人のこころ〈4〉

ジャーナリスト 高嶋 久

宮崎・高千穂——『古事記』(2)

天皇家のふるさと

哲学者の梅原猛さんの本に『天皇家の”ふるさと”日向をゆく』(新潮文庫)があります。古代は「ひむか」と呼ばれた宮崎は、古事記神話で天孫降臨の地とされているからです。もっとも、その場所は、県北の高千穂町と県南の霧島連山にある霊峰・高千穂峰(高原町)の2か所が推定され、どちらとも決まってはいません。

梅原さんは、宮崎県のほぼ中央に位置する西都市に、3世紀前半〜7世紀前半の最大級の西都原(さいとばる)古墳群があることから、皇孫の一族は高千穂町から宮崎の中央に進出し、稲作を広めたのではないかと想定しています。

高千穂町には毎年11月中旬から2月上旬にかけて、町内の20ほどの集落で氏神を家などに迎え、夜通し奉納する「高千穂の夜神楽」があり、国の重要無形民俗文化財に指定されています。秋の実りに感謝し、来年の豊穣を祈願する神楽は33番もあり、高千穂神社の神楽殿では毎夜、観光客向けに代表的な4番が演じられています。

天岩戸神社

天岩戸(あまのいわと)神社の裏の岩戸川にある天安河原(あまのやすかわら)は、古事記神話でアマテラス(天照大神)の岩戸隠れの際、八百万(やおよろず)の神々が集まって相談した場所であると伝わっています。川原の中央部にある仰慕窟(ぎょうぼがいわや)と呼ばれる洞窟にある天安河原宮には、オモイカネ(思兼神)を主祭神に八百万神が祀られています。

古事記神話では、イザナギとイザナミの夫婦神による国産みの後、イザナミは火の神を産んで亡くなり、出雲の国と伯耆(ほうき)の国の境の比婆山に葬られます。

妻をひと目見たくなったイザナギは、黄泉(よみ)の国に行き、一緒に帰ろうと言います。イザナミは既に黄泉の食物を食べたのでそれはできないが、黄泉の神と相談してくるので、その間、私を見ないでください、と言ってその場を去ります。しかし、待ち切れなくなったイザナギが妻を見ると、骸骨にうじ虫がたかっていたのです。

恐くなって逃げ出したイザナギを、約束を破り恥をかかせたと怒ったイザナミが荒々しい女たちに追わせます。何とか逃げ延びたイザナギに、イザナミは「あなたの国の人草(ひとくさ)を、一日に千人殺すと告げます。それに対してイザナギは「わたしは1日に1500の産屋を建てよう」と答えました。亡くなる人より生まれる人が多くなったという話です。

その後、汚れた身を清めたイザナギの、左の目からアマテラスが、右の目からツクヨミが、鼻からスサノオの3人の貴い神が生まれます。イザナギはアマテラスに高天原を、ツクヨミに夜の国を、スサノオに海原(地上の国)を治めるよう命じます。

ところが、スサノオは母に会いたいと泣きわめいて国を治めようとしないので、イザナギに追放されてしまいます。スサノオは姉のアマテラスに訳を話してから去ろうと、高天原に昇りますが、それを見たアマテラスは、弟が国を奪いに来るのではないかと疑い、武装して備えました。

高天原に来たスサノオは、田の畔を壊して溝を埋めたり、御殿に汚物を撒(ま)き散らしたりの乱暴を働きます。他の神は苦情を訴えたのですが、アマテラスは「何か考えがあってのことだろう」とスサノオをかばいます。

しかし、アマテラスが機屋(はたや)で神に奉げる衣を織っていたとき、スサノオが機屋の屋根に穴を開け、皮を剥いだ馬を落としたため、驚いた服織女の下腹部に機織りの道具が刺さり、死んでしまったのです。

怒ったアマテラスが、天岩戸に引きこもったので、天地は真っ暗になりました。そこで、八百万の神々が集まり、対策を相談したのが天安河原です。

アマテラスの天岩戸隠れ

賢いオモイカネの案で、まず常世(とこよ)の長鳴鳥(ながなきどり)を集めて鳴かせ、夜明けを告げさせました。次に、鍛冶師のアマツマラを探し出し、イシコリドメに言って鏡を作らせ、タマノオヤに八尺の勾玉(まがたま)の玉飾りをたくさん作らせ、アメノコヤネとフトダマに雄鹿の肩の骨とハハカの木で占いをさせ、根ごと掘り起こしたサカキの枝に玉飾りと鏡と布をかけ、フトダマが御幣(ごへい)として奉げ持ちました。そして、アメノコヤネが祝詞(のりと)を唱え、力持ちのアメノタジカラオが岩戸の脇に隠れて立ったのです。

アメノウズメが岩戸の前に伏せた桶を踏み鳴らしながら、神がかりのようになり、胸をさらけ出し、裳の紐を解いて、下腹部まで見せながら踊りました。それを見て、喜んだ八百万の神が一斉に笑い、高天原は大騒ぎになったのです。

それを聞いたアマテラスは不審に思い、天岩戸の扉を少し開け、「わたしが岩戸にこもり闇になっているのに、なぜアメノウズメは楽しそうに舞い、八百万の神は笑っているのか」と聞いたのです。アメノウズメが「あなた様より貴い神が現れたので喜んでいるのです」と言うのと同時に、アメノコヤネとフトダマが鏡を差し出すと、鏡に映った自分の姿をその貴い神だと思ったアマテラスは、もっとよく見ようと岩戸をさらに開けたので、隠れていたアメノタジカラオが、その手を取って岩戸の外へ引きずり出したのです。

すぐにフトダマが岩戸の入口にしめ縄を張り、「これより中に入らないでください」と言いました。こうしてアマテラスが岩戸の外に出たので、天地共に明るくなったのです。

これらの神話が意味するのは、人の死とよみがえりで、岩戸や洞窟は母の胎を意味しています。今の神事の祝詞や神楽、しめ縄などの原点が記されているのも興味深いですね。