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芸術と家庭・・・音楽編(3)

吉川鶴生

ポップスに歌われた家族の世界

母の愛

音楽は、基本的に平和を歌い、愛を歌う方向性を持っています。戦争や争いを告発し、社会問題を訴求するプロテストソングなども多いのですが、根本的には、神に捧げる宗教的な舞踏や歌が、踊りと音楽の始まりであるとする学説もあるほどですから、どんな事件があったとしても、最後は、平和への祈りを込め、家族の愛の絆を願う音楽が一般的であるということでしょう。

多くのポップシンガーたちが、家族に関するさまざまの情景を歌ってきました。たとえば、イギリスの「クイーン」というロックグループの有名な歌に「ボヘミアン・ラプソディー」※1という曲があります。ギターとピアノの音色に乗せて歌われる美しいコーラスの内容は、一つの悲劇を巡って、息子が母親に哀願し、救いを求めるものです。

「ママ、僕はたった今、人を殺してきた。ああ、ママ、ママを泣かせるつもりじゃなかった、もう、遅すぎる、僕の最期が来た、苦痛に責め立てられる、さよなら、ああ、ママ、僕は死にたくないよ、ママ、愛するママ、僕を助けて」とフレディー・マーキュリーが切なく歌っていますが、苦境に落ちた者たちが最後に助けを求めて叫ぶのは「ママ!」という言葉でしょうか。

これは、母子関係こそが最強の絆であるという普遍の真理を物語っているようです。父子関係も根本的に重要でありますが、母親の愛は慰労し、許し、温かく包むという特性があるので、罪を犯した者たちの最後の逃げ場は、母親の懐であると言えそうです。

兄弟姉妹の愛

人類がもし一つの起源から出発している兄弟姉妹と考えるならば、現在の世界の争いは、その一つの起源を見失ってしまい、兄弟喧嘩の世界が現れてしまったという見方が成り立つでしょう。しかし、もし、弟や妹をどんなことがあっても守ってやるという頼もしい兄、兄らしい兄がいたら、その美しい兄弟愛の世界を人々は称えるでしょう。

スウェーデンの「アヴィーチー」という非常に有名なミュージシャンが、「ヘイ、ブラザー」※2という歌を世界的にヒットさせましたが、その歌詞を見ると、「なあ、弟よ、道は果てしなく続き、再発見を繰り返すんだ、なあ、妹よ、家族の絆に勝る関係はないぞ、もし空が落ちるようなことがあっても、俺がお前たちを必ず守ってやる、もし全てを失ったとしても、妹よ、俺はお前を必ず助けてやる」といった内容を歌い上げています。

同じ兄弟でありながら、考えも違ったり、貧しかったり、豊かであったり、いろいろとあったり、実際には、兄弟姉妹でありながらも、疎遠になってしまうような世界です。ですから、「アヴィーチー」が歌う、これほど、自信満々に、弟と妹をどんなことがあっても守ってやるという兄がいたら、幸せな兄弟姉妹であると言えます。

物心ともに大成功を収め、余裕のある兄でなければ、下の者たちを面倒見切れませんが、たとえ、成功を収めた兄でも、弟や妹の面倒を見ないという兄もいることでしょう。兄というのはこうあるべきなのだという「アヴィーチー」の願望、理想像が、このような歌を歌わせたのだと思います。

家庭崩壊の悲劇

母親の辿った人生の道を反面教師として、自分はしっかりと生きていくのだと自身に言い聞かせながら歌う歌があります。

ケリー・クラークソンの「ビコーズ・オブ・ユー」※3は、ケリーの母親が離婚し自殺した実話に基づく悲しい歌ですが、自分は母の道を繰り返さないと涙ながらに歌うのです。聞いていて切なくなります。

同じように、米国のシンガーソングライター「ピンク」(アリシア・ムーア)の歌う「ファミリーポートレイト」※4も、悲惨な家族の情景が歌われます。アリシアが7歳の時、両親は離婚、高校を卒業して、母親はアリシアを家から追い出します。自身の子供時代の家族の惨めな体験が歌われ、この曲も米国の家庭崩壊の断面図を描き出しています。

ジャック・ジョンソンの「ベター・トゥゲザー」※5は、「いつだって、一緒にいるのがいい」という本来的な男女像、カップルの理想像を心地よく歌っているのが救いですが、このカップルにもすれ違いがあるようです。

やはり、理想の世界、理想の家族を求める人間の本性があるかぎり、ルイ・アームストロングの歌う「素晴らしき世界(ホワット・ア・ワンダフル・ワールド)」※6こそ、平和と愛の溢れる人類の理想郷でしょう。

「木々は緑色に、赤いバラはまた、わたしやあなたのために花を咲かせ、そして、私の心に沁みてゆく。何と素晴らしい世界でしょう」。何と言っても、家庭に平和が訪れてこそ、世界の平和は可能なのです。

文中で紹介されている曲は以下のサイトから聴くことができます。
 (クリックすると、別ウインドウまたはタブで外部サイトが開きます。)

  1. クイーン 「ボヘミアン・ラプソディー」
    Queen . Bohemian Rhapsody (Official Video)
     http://www.youtube.com/watch?v=fJ9rUzIMcZQ
  2. アヴィーチ− 「ヘイ、ブラザー」
    Avicci - Hey Brother
     http://www.youtube.com/watch?v=6Cp6mKbRTQY
  3. ケリー・クラークソン 「ビコーズ・オブ・ユー」
    Kelly Clarkson - Because Of You
     http://www.youtube.com/watch?v=Ra-Om7UMSJc
  4. ピンク 「ファミリーポートレイト」
    P!nk - Family Portrait
     http://www.youtube.com/watch?v=hSjIz8oQuko
  5. ジャック・ジョンソン 「ベター・トゥゲザー」
    better together - jack johnson
     http://www.youtube.com/watch?v=u57d4_b_YgI
  6. ルイ・アームストロング 「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」
    Lois Armstrong . What A Wonderful World
     http://www.youtube.com/watch?v=21LGv8Cf0us