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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

恒例の18切符の旅は初見の松本市と日本一の豪雪地帯を走る飯山線めぐりの1日

齢(よわい)70の新年を迎えても、冬休み、夏休みの季節となると「青春18切符」の1日旅に心が駆り立てられるのは芭蕉のごとし。と言いたいが、一句は浮かんでこない。ここ数年は冬夏各1回、伝授したその魅力に私以上にはまり今や家族ぐるみで18切符を使いまくっている友人との二人道中が恒例となっている。昨年の冬は会津若松行だった。

で、今年の正月。関東地方は概ね穏やかな日和(ひより)に恵まれたが、北陸、信越地方は北日本を覆った寒波で大雪、吹雪の年明けであった。その正月2日に両方の景色をながめる欲張り車行となったのである。

JR中央線の東京・八王子駅を朝6時35分発の普通(各駅停車)が甲府、上諏訪、塩尻駅などを経て44駅目で終点の松本駅(長野県)に着いたのは朝の10時16分。今回、唯一下車して町なかに繰り出した松本は初見参で、次の長野行き(篠ノ井線・午後1時29分発)まで3時間ちょっとの市内見物だった。

まず、旅の楽しみは温泉から。駅から15分ほど歩いて「瑞祥」というスーパー銭湯風の天然温泉で朝湯と贅沢した。いつも行き当たりばったり飛び込みでも入れるように、手拭いは必ずリュックに忍ばせるのが二人の流儀である。昼食は目の前にあった1皿100円の「くら寿司」でエコノミーに済ませた。東京でもよく見かけるチェーン寿司店は入ったことがなく、ここが初めてだったが、質量ともに満たされた。遠くに雪を被る高山に囲まれた松本は、空気が清涼な上に文化的香りが漂う整然とした町並みも大いに気に入った。

松本から長野まで13駅1時間15分は高原から盆地に下る区間で、久しぶりに今では珍しいスイッチバック方式を楽しむ。長野午後3時発の4両ディーゼル列車は、越後に入ると信濃川と名を変える千曲川沿いに日本一の豪雪地帯を行く北しなの線、飯山線で上越線に乗り換える越後川口駅まで33駅(100キロ余)を約3時間かけて走る。初めての飯山線では、温かい車内から曇天に変わった窓外の厳寒の雪景色に時折、稲光が走るのを見た。途中、北陸新幹線の飯山駅(東京から約252キロ)では非電化の飯山線が交差していた。野沢菜漬けの戸狩野沢温泉駅ホームに立つ道祖神男女2体、昭和20年2月に駅として日本最高積雪量7メートル85センチを記録した標識が建つ森宮野原駅などを見ての旅は飽きない。

帰京できる最終電車の越後川口午後6時20分発。暗闇の中を水上、高崎で乗り継ぎ、大宮を経て新宿着が深夜11時31分だったが、二人とも疲れた感じはなかったのである。