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愛の知恵袋 114

家庭問題トータルカウンセラー 松本 雄司

責めない、比べない、思い出さない

友人がうつ状態になってしまった

先日、60歳代の友人の奥さんから電話がありました。「実は最近、主人がうつ病みたいになっていて、困っているんです。ちょっと、相談に乗ってあげてくれませんか?」と言います。

しばらくして友人が電話口に出てきました。

「いやあ、夜分に悪いね。妻が『松本さんに相談してみたら!』と言うもんで……」

「ああ、お久しぶり! 仕事をやめて、元気にしてるって聞いていたんだけど、何かあったの?」

「特に何か問題があったわけじゃないんだけど、1か月ほど前から調子が悪いんだ」

「どんな状態なの?」

「とにかく、体はだるいし、何もする気がわいてこないんだ。かと言ってじっとしてると、いろんなことを思い出して憂鬱になるし、イライラして自己嫌悪に陥ってしまうんだ。将来の事を考えると不安が湧いてくるし…、夜もよく眠れないんだよね……」

彼の状態は、何かの使命感で走り続けてきた人が陥る「仕事ロス」か「燃え尽き症候群」と言える症状なのかもしれません。しかし、よく聞くと、もっと深い問題も抱えているようだったので、本格的な「うつ病」になってしまわないよう、早いうちに克服させてあげたいと思いました。

医学と禅でうつ病を克服した医師

そこで、私はある言葉を彼に贈りました。「責めない、比べない、思い出さない」という言葉です。そして、この言葉の提唱者である高田明和先生のことを話して、生活の中で実践してみることを勧めました。

高田先生は静岡県の生まれ。慶応義塾大学医学部を卒業、同大学院を修了後、アメリカに渡り、ロズエル・パーク記念研究所を経て、ニューヨーク州立大学助教授となり、再び日本に戻って浜松医科大学教授を経て、同大学名誉教授になった方です。生理学、血液学、脳科学を専門とする医学博士ですが、”禅”の研究者としても知られ、心と体の健康について多くの講演や本の執筆をされています。

そんな先生ですが、実は9年間の米国生活を終えて日本に帰って来た時、カルチャーショックで激しいうつ病になってしまったそうです。その苦しみから抜け出すための模索をするなかで、禅の教えと実践から多くを学んだそうです。ここではその一部を紹介したいと思います。

人は考え過ぎて心を乱す

私たちは絶えず何かを考えています。過去に起きたことや、人間関係のことなど、いろいろ思い出しては心が乱れます。

「あんなことを言うんじゃなかった」とか、「また失敗してしまった」とか考えて後悔します。さらに、人から受けた仕打ちを思い出して不愉快な気持ちになったり、「あれは許せない」と怒りが湧いてきたりします。

このような”思い”というのは、そのまま放っておくと、自分の心の中でどんどん広がっていき、葛藤が生じたり、自己嫌悪に陥ったり、自信を無くしたりします。

ある研究者によれば、私たちが思い出すことの80%くらいは、嫌なことだといいます。しかも、この率は年を取るほど増えて、70歳代、80歳代になると、思い出すことのほとんどが嫌なことになっているそうです。「年をとると愚痴が多くなる」というのも、うなずけます。

”禅”では、考えること、思い出すことが不幸のもとになると説いています。

責めず、比べず、思い出さず

私たちの悩みの元をたどると、他人と比較することが原因であることが多いようです。比べれば劣等感や嫉妬心が湧いてきます。また、過去の失敗やできなかったことを思い出すと、批判されたり、軽蔑されたりしたのではないかと自分を責めます。

しかし、自分を責める心がある限り、幸せにはなれません。そして自分が自信を失ってしまえば、生きていけません。そうならないためには、とにかく余計なことは思い出さないことが肝心だというのです。それを禅ではこう教えています。

「思うて詮なきことは思わず」……考えてもどうしようもないことは考えない。

それと同時に、「念を継がない」ことが大事だと言います。

「念起こる、これ病なり。継がざる、これ薬なり」……つまり、私たちは何かを思い出すと、次から次へと思い出しては心を乱してしまいます。思いを次々に追うことをやめ、スパリと断つことが肝要だと言うのです。

そして、高田先生は、朝夕に「困ったことは起こらない!」「全ては良くなる!」という言葉を、何度も繰り返し唱えて自分に言い聞かせると、心は穏やかになり力が湧いてくるといいます。

私達も、不安な時、心が乱れた時、気分が落ち込んだ時には、やってみましょう。


(参考文献:高田明和著「責めず、比べず、思い出さず」コスモ21)