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福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から (1)

医療ソーシャルワーカー 永野栄子

「家族の健幸」に思うこと

子育て真っ最中だった30代後半の私は、親の介護が必要となり、夫とも話し合い故郷に帰ることになりました。そして、知人の勧めで介護の傍ら、保健所主催の「健康づくり活動」に栄養・食事面でのお手伝いをするのですが、やがて本格的に、母と父の介護をする生活が始まります。その当時、毎日の生活に葛藤もありましたが、入浴中に喜ぶ母の顔や、「まだかなー」と食事を楽しみにしている両親の姿をみると、嬉しくて愛おしくてたまりませんでした。

そのような忙し過ぎる暮らしの中で、私は、一方で子として、妻として、親として、心を亡くして生きてきてしまったのではないかと思ったりもしました。その後、医療ソーシャルワーカー(病院の相談員)となり現在に至ります。そして、さまざまな家族と出遭うようになりました。今回は、「家族福祉」の一端を担う立場から、少し考えてみたいと思います。

家族福祉の目的は、「家族の健幸(ウェルビーイング well-being)を維持・促進させることにある」と、畠中宗一博士は述べています。また、家族の健幸とは、「ヘルシー・ファミリーという目的概念の実現を意味します」とも述べています。

このウェルビーイングは、「幸福」と翻訳されることも多いのですが、世界保健機構(WHO)憲章の定義では、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべて満たされた状態(well-being)にあることであり、万民の基本的権利の一つである」(本人翻訳)とあります。また、まだ審議、採択されていませんが、一九九九年総会では霊的(スピリチュアル)という文言を健康定義に加える提言がなされています。

こうして理解してみると、家族の構成員一人ひとりが抱く主観的幸福感、主観的健康感が「家族の健幸」に繋がるのでしょうか。

幸福も健康も、古(いにしえ)から誰もが願ってきたことで、中世の思想には、「善行は神の意志であり幸福を導くものであり、健康は善行を導くものである」という考え方があります。また、内閣府が行う調査では、幸福感を判断する項目として、「家族」、「精神的ゆとり」、「家計」、「健康」などが挙げられています。

さて、私の勤める病院に、先月ステップファミリー(再婚)の夫が入院しました。後から妻も入院してきました。二人ともお酒が好きで、飲みすぎで低栄養状態、肝臓機能は低下しています。夫は要介護状態で、認知症、重い疾患を抱えており、医師からは、自宅退院困難な高齢者世帯ケースなので、治療が終わったら施設に入所するようにとのアドバイスがありました。しかし、ある日、妻が夫の病室まで歩いて行き来できるようになると、夫の食事量は徐々に増えていき、夫は「家に帰りたい」と口にするようになったのです。

その後、妻と話し合いを重ね、夫の余命に限りがあるのなら、自分が飲酒をやめて、ちゃんと料理をつくると言ってくれました。入院が長引くと経済的にも厳しく生活苦になることも予想され、病院の主治医・往診医・訪問看護師・ケアマネージャー・訪問介護士・地域行政職員・相談員間で連携し、無事自宅退院となりました。今も仲良く幸せに過ごされているとのことでした。温かい気持ちが伝わってきました。


※ ヘルシー・ファミリーとは個人化や多様化を前提とした、多様な価値観を前提とした目的概念。それに対してノーマル・ファミリーとは、既存社会の価値観を内面化しそれに同調的に生きる家族のこと。