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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

不乱に鳴くセミの声に短い命を大切に生を完全燃焼する讃歌を聞く

炎天の真夏を詠んだ正岡子規の句に〈炎天の色やあく迄深緑〉がある。

8月の別名「葉月」は、木々や植物が満ち育って葉を落とす月、葉落ち月が略されたのが謂われともいう。木々に茂る葉の緑極まった深緑が美しい。その下の木陰だけは猛暑もしのげてホッとできるオアシス空間をつくってくれるのである。

そんな樹木が立ち並ぶ公園のあちこちから、音のシャワーのように一斉にセミ時雨が聞こえてくる。ホタルと同じで成虫は地上で一週間ほどの短い命だが、その無音の光の乱舞にはかなさを感じさせるホタルとは別の、短い時間を惜しむように精一杯鳴きまくるセミのそれはあふれる夏のエネルギーの完全燃焼とも映る。うるさく、暑苦しく、うっとうしく感じる人もおられようが、これで本格的な夏がきたと元気を倍増させる人もいよう。

受け止め方は人さまざまだが、セミの種類もさまざまである。昆虫の専門家によれば、日本に生息するセミは約35種という。夏の登場順に鳴き声を聞いていくと、まずおなじみはアブラゼミ。初夏にジーィジーィと一本調子の合唱で鳴き続け、真夏の到来が近いことを告げる。同じ頃、アブラゼミに負けじとニイニイゼミも「チーー」と細い声を束にしてうるさいぐらいに鳴き競うのだが、影が薄いのは否めない。

ツクツクボウシ

次に夏の盛りに出てきて「私が主役よ」とばかりにソロで合唱に加わるのが、ミンミンゼミ。ひと際甲高い鳴き声は、たちまちにアブラゼミやニイニイゼミをバックコーラスに従わせてしまう。また「シャワ、シャワ」と合唱する大型のクマゼミは温暖化で生息域を広げ、東京など都市圏でもよく見られるようになった。

続いて、やはりソロで登場するのがツクツクボウシだ。その名のように聞こえる鳴き声は強弱や緩急が付いて芸が細かい上に、夏の終わりを惜しむ哀調を帯びた調べを奏でる。そして、都会ではなかなか聞けなくなったが、秋が近づくと「カナカナカナ」と鳴き声にも芸術性を漂わすヒグラシもいる。

子供の頃はタモを手に木登りしてまで、セミを追いかけ回したが、いまは不乱に鳴くセミの声に、その種類を思い浮かべ、短い命を大切に生を完全燃焼する讃歌を聞くだけだ。

芭蕉に〈閑さや岩にしみ入る蝉の声〉、〈やがて死ぬけしきは見えず蝉の声〉の句がある。