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福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から (6)

高齢者福祉施設長 柳楽幸治

開かれた地域密着型施設を目指して

福祉関係の仕事に身を置くようになってから25年の歳月が流れようとしているが、思い起こせば「措置」の時代が始まりだった。その頃は、行政が入所の決定権を持って手続きが行われていた。

この時代はどちらかというと閉鎖的で、施設に家族を預けると、親戚や近隣の知り合いから、「何で親を施設に預けたんだ!」と非難めいた言葉を投げかけられるような時代であった。

平成10年代の初頭には介護保険が開始となった。介護保険が始まると同時に、介護施設に対しても世間一般からの認知度が少しずつ上がってきて、自分の親、夫または妻を「施設に預けています」と堂々と言える時代となってきた。

「地域密着型」ということが叫ばれてから数十年が経過している。この間に、グループホーム、小規模多機能施設、地域密着型特別養護老人ホーム等の施設が整備されてきた。地域密着とは、施設職員、家族、地域住民に対し、施設の運営に透明性をもって、開かれた施設を目指すものである。

しかし残念なことに、昨今、川崎市の施設において、職員が入所者を階上から突き落として死亡させてしまったり、愛知県においては老老介護のご家庭で、介護者の妻が昼寝をしている最中に、認知症の夫が徘徊して特急列車に撥(は)ねられて死亡するという痛ましい事件も起きている。

さて、先日、私の勤める施設に町内の3人のお年寄りの婦人が見学にお見えになった。「自分達もいずれ行くのだから」と、勉強のために来たとおっしゃる。しかし、よくよく話を聞いてみると、3人とも自分の夫を入所させたいとのことであった。

一人は、老夫婦2人だけの生活なので、自分が動けなくなったら誰が夫を見るのかということでの入所希望であった。他の2人も同様の理由を持っておられた。一例に過ぎないが、誰憚(はばか)ることなく施設入所を言える、開かれた福祉行政になってきたことを痛感する。

施設も受け容れのため、開かれた運営を目指している。地域の住民に対して年中行事を通して足を運んでいただくようにしている。今年度は春の花見から始まった。市議会議員をはじめ、地域のお年寄り十五名ほどに来ていただき、施設の入所者との交わりの場を持った。地域ボランティアによる施設苑内の草刈り、地域住民との合同消防訓練等もしている。また、地震災害の際の避難場所として施設を使っていただけるように、市に申請を行っている。安心してご家族を預けて下さるよう定期的に市の職員・自治会長・民生委員・有識者・家族の代表に集まっていただき、施設運営の詳細を報告し、ご理解をいただいている。

入所者に不利益になるような事が生じれば、すぐ行政にも報告して改善策を講じている。「為に生きる」精神を根底に持ち、より地域に開かれた施設運営を目指している。入所者には楽しんで生活していただきたいし、身内にも安心して委ねていただけるためにも、今後とも益々、地域との絆や信頼関係が深まっていくことを願っている。