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福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から (8)

社会福祉士 矢田美佳

生活保護課に身を置いて

私は福祉職としての経験は浅く、何かを語る立場には到底ないと自覚しているが、福祉の現場を少しでも知る者として述べさせていただくことをお許しいただきたい。

私は、6年間小学校の特別支援教育の講師や支援員として従事したあと、社会福祉士の資格を取得して、区役所の生活保護課に入職した。

小学校で、課題を抱えた児童の問題に対応するスクールソーシャルワーカーの必要性を肌で感じ、また、子どもや家族を取り巻く環境に働きかけていくことの重要性などを考えて、仕事をしながら大学通信教育で福祉資格を取得した。

さて、いざ福祉の現場に身を置くと、大学で学んだことなどは「心得」に過ぎず、経験値の積み重ねこそ戦力であり、また、国の福祉政策は生き物のように絶えず変わっていくので、日々勉強である。

そして、日本の福祉制度を利用する場合、ほとんどが利用者による「申請主義」であることを痛感した。生活保護にしても、当事者がこの制度を知って役所の窓口に来て申請しなければ、その恩恵に与ることはできない。たくさんの行政サービスや民間サービスがあるにも関わらず、知らない人も多いということは大変残念なことだ。現業員として、受給者が利用できる制度やサービスを紹介して申請を促しながら、私自身が初めて知ることも多かった。

ある時、知人からの紹介で長年海外ボランティアに従事してきた方が高齢になり、同居の奥様も認知症になって途方に暮れているから相談に乗ってほしいとの依頼があった。お会いしたご主人は、生活保護を受給することに抵抗感をお持ちで、どこか人生になげやりな印象を受けた。私は、人生の先輩でもあるその方に敬意をはらいつつ、生活保護の種類と仕組みについて説明した。

すると、医療にも介護にも扶助があることを知って、その方は安堵され、表情も明るくなってきた。結果的にその方は、他県の娘さんを頼って生活の目途を立てることとなり生活保護を受けずに済んだのだが、いざとなったら国の生活保障施策に頼ることもできるという安心感が、その方に具体的な勇気をもたらしてくれたのかもしれない。後日、知人から「あなたとお話しできて、あの方、嬉しそうでしたよ」と言われて、私も嬉しかった。

さて、対人援助の際、大学通信教育時代の恩師に教わったことをいつも忘れないようにしている。それは、「理解」の英語の表現が「understand」だが、文字通り相手の「下に立つ」ことによって理解に至ることができるというものだ。相手の下から見上げる姿勢のほうが全体がよく見える、ということである。

実際、保護課現業員は一人で100件以上の保護受給者家庭を任されていることが多く、新規の受給者が加わると「またか」という負担感を感じることを否めない。しかし、こちらの態度は相手に敏感に伝わるものである。受給希望者に心を閉じられると援助に支障をきたしてしまう。常に他者に対する敬意を失わず、生命を尊く思って、敬い仰ぐ姿勢を保ち続けられるかが挑戦、と思う日々である。