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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

ひな祭りは女児の健やかな成育を願い祈る両親の愛の行事

〈いきいきと三月生る雲の奥〉 飯田龍太

旧暦で弥生という3月。萌えいずる草木が生い茂ることをいう「弥(いや)おい」が「やよい」となったと言われる。トルストイは〈地球の皮を剥いでも春はやってくる〉と言い、ケルトの古い言い伝えには「三月 雨のなかに微笑する」がある。水が温(ぬる)み、花はほころぶ。地中で冬ごもりしていた虫や蛙、蛇などの生き物も眠りを覚まし、穴から這い出てくる、柔らかで明るい春の訪れを実感する季節である。

そんな季節を最も象徴する行事が雛祭り、桃の節句である。ルーツは中国だが、今や日本の伝統行事のごとくになっているほどだ。節句は節供ともいい、「節」は季節の変わり目、「供」は供え物のことで、その時季の薬用となる植物を供えることで邪気を祓い、元気をもらい長寿健康を願う行事である。

節日(せちにち)は1年の間に5つあり、月と同じ数の日(1月だけは7日)に設定され、供える植物にちなんで1月・七草、3月・桃、5月・菖蒲、7月・笹、9月・菊の節供と呼ばれて親しまれてきた。

また中国では陰暦の3月上旬の巳の日に上巳(じょうし)の祓いを行う習慣があった。水辺で禊(みそ)ぎをしたあと酒宴を催して災厄などを祓う。そして3日が上巳の日になることが多いことから3日を定日として行うようになり、3が重なることから重三(ちょうさん)の節句ともいうようになったのである。

水辺の宴の習慣も、次第に庭園などをゆるやかに曲がりくねる小川のそばで、上流から流れくる杯(さかずき)が自分の前に着くまでに詩歌を詠み、終わると別席の宴席で詠歌を披露する「曲水(きょくすい)の宴」という風雅な宮中行事として、今では各地で催されている。

ひな人形

上巳の祓いは人形(ひとがた)を川や海に流す行事となり、次第にこれが宮中や公家の子女が着飾った人形で遊ぶ「ひいな遊び」になり、江戸時代には雛壇に人形を飾って楽しむ雛祭りとなっていったのだ。

春の訪れを告げ季節を彩る、ももの節句のひな人形とひな祭りは、女児が健やかに育ってほしいと願い祈る、いつの時代も変わらない両親の深い愛がこめられてきた伝統行事なのである。

〈三月や水をわけゆく風の筋〉 久保田万太郎