機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」人生を豊かにする金言名句(41)

人生を豊かにする金言名句(41)local_offer

ジャーナリスト 岩田 均

泥中の蓮

今月は、「けがれた環境の中でも美しさを保っているもの」(小学館刊『故事成語を知る辞典』)のたとえです。ですが、いくつかの辞典を調べてみて、もう少し深い意味があることを知りました。

すぐに連想した別のことわざは、「掃き溜めに鶴」でした。だいたい同じ意味だろうと勝手に思ったのですが、ニュアンスが違っていました。文字そのものを追ってみると、鶴が舞い降りてきて、ごみためなどで清らかな姿を際立たせている――様(さま)です。ですから、「優れたもの、貴いものが、全く不似合いな、むさくるしい場所に存在する」(三省堂刊『故事ことわざ・慣用句辞典 第二版』)ことです。

では、蓮はどうでしょうか。泥沼の中に生えて清らかに咲きます。由来は『維摩経(ゆいまきょう)』(大乗仏教の経典の一つ)。その翻訳文を読んで改めて感動しました。前後の説明は省きますが、文殊菩薩(知恵の菩薩)が言いました。「高い土地には美しい蓮の花は生えず、低い泥だらけの沼地の中にこそ、この花が咲く」(『故事成語を知る辞典』)と。

蓮の根っこは、もちろんレンコン(蓮根)。地下茎で、泥の底にあります。田んぼは腰くらいの深さがあります。昔は、胸まであるゴム長靴を履いて沼の中での手作業で収穫していました。人もレンコンも泥まみれです。私の生まれた家のすぐ裏が蓮の田んぼだったので、その光景を覚えています。念のため、睡蓮(スイレン)とは違います。

沼の上に出てくるのは大きな葉。その上に溜まった雨のしずく。時々カエルがいて…絵になりますね。そして、花の茎も伸びてきて、つぼみが開いて淡いピンク色の花びらを広げます。中央の蓮台はだんだんと大きくなっていき、薄い緑色から濃い緑色に変わります。ハチの巣に似ています。

お釈迦様の像の台座といえば蓮です。なぜでしょう。文殊菩薩が言ったように、泥水にだけ咲くのが蓮。世俗(泥を指す)に生まれた清いお方だよ、と。