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APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」チョッとためになる健康のお話(20)

チョッとためになる健康のお話(20)local_offer

健康アドバイザー 上杉和彦

噛めば噛むほど幸せになる

今年の夏は身の危険を感じるほどの暑さが続きましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。私は久しぶりの「ギックリ腰」になりました。前ぶれもなく突然やってきたものの、幸い軽症だったので、1週間ぐらいで元の生活に戻ることができました。もう5回ぐらい経験しているので、疲れをためないように、腰や背中の筋肉が凝らないように注意していたのですが、ストレスが原因だったかもしれません。

「ギックリ腰」とは、筋肉の断裂による内出血なので、温めてはいけません。より出血して悪化します。ひたすら冷湿布をして炎症を抑え、出血を止めなくてはなりません。痛みが治まり動けるようになって、お風呂に浸かっても痛みが出なくなったら、温めましょう。急性は冷やす、慢性は温めるが原則です。

私は毎日体重計に乗って、体重を量っています。タニタの体重計を使っているのですが、それには理由があります。

10年以上前、タニタは健康増進のための計測器を生産しながら、社員の健康状態があまり良くありませんでした。これでは会社の理念に合わないということで、社員食堂を作り、栄養士を入れて、どのメニューも500キロカロリー以下にします。男性社員でも満足できるように食材や調理方法を工夫しました。すると、みるみる健康状態が良くなり、弁当を食べていた社員も社員食堂で食べるようになったのです。社員食堂のメニューを本にしたら爆発的にヒットし、外向けの食堂も作ってしまいました。私はその頃、東京大手町の「タニタ食堂」に食べに行ったことがあります。きれいな盛り付けでおいしかったです。ただ、ご飯はコンビニのおにぎり1個分の100グラムで、チョッと少ないなあと思いました。その時はあまり気にしていませんでしたが、そこには砂時計が置いてありました。20分計でした。つまり、「よく噛んで、20分かけてゆっくり食べてください」という意味だったのです。厚生労働省も2019年に「噛ミング30」という、歯の衛生とダイエットのための方針を発表しています。食事の際、一口30回以上噛むということです。

これくらいの時間をかけて食べると、脳にブドウ糖が回り始め、満腹中枢が満たされて食欲が減ってきます。また、よく噛むことによって唾液が多く分泌され、血中の糖分濃度が上がって満腹中枢が満たされるということもいえるでしょう。また、よく噛めば、パリパリ、シャキシャキなどの食感と料理の匂い、舌で感じる味が脳に伝わっておいしい、好きだ、楽しい、幸福だというリラックスした気分になり、副交感神経が活性化します。すると消化活動が活発になるのです。

さらに、よく咀嚼(そしゃく)されれば唾液中の消化酵素と混ざって、より消化されやすくなります。唾液がよく分泌されると虫歯予防にもなるのです。虫歯菌が口の中の食べかすを食べて酸を出し、その酸が歯の表面を溶かすことで虫歯になります。そこに唾液が分泌されると酸が中和され、虫歯を防ぐのです。さらに酸によって溶けてしまった歯の表面をコーティングし直して、修復します。これを再石灰化といいます。また、かぜなどの細菌を殺したり、がん細胞の活動を抑える酵素も出すのです。噛むことで脳も活性化しますから、認知症の予防にもなります。「噛めば噛むほど幸せになる」ということですね。