機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」チョッとためになる健康のお話(27)

チョッとためになる健康のお話(27)local_offer

健康アドバイザー 上杉和彦

「聾(ろう)は盲目より困難」

「冬来たりなば春遠からじ」冬と春の境い目はどこでしょうか。朝晩寒くても、昼間の日差しが少しでも暖かくなれば春が近くなったことを感じます。寒風が吹いていても、桜の枝のつぼみが目立ってくれば小さい春を感じます。コートが邪魔になれば、本当の春です。そして、職場や学校で新たな年度がスタートします。

以前、白内障手術の話をしました。現在、私の右目に入っている人工水晶体は快適で、今まで頻繁に使っていた老眼鏡の出番が少なくなっています。いわゆる裸眼で本やスマホを見ても疲れなくなったからです。そういう意味では若返ったとも言えます。

しかし、盲目と聾唖(ろうあ)の三重苦を背負ったヘレン・ケラーは言います。「聾は盲目より困難」。一般的に視覚と聴覚のどちらを取るかと聞かれたら、視覚を取る人の方が多いというアンケート結果が出ています。ところがなぜ、ヘレンは聴覚障害の方が困難だと言ったのでしょうか。それは、声が聞こえない方が圧倒的に孤独になるからです。9歳で失明し、18歳で聴力を失った福島智さんという東大教授は、自身が書いた本の中で、「音のない真っ暗な宇宙に取り残された感覚だ」と言っていました。

そんなに大事な聴力なのですが、どちらか一方の耳に難聴がある人は、60代では5割、70代では7割、80代では実に9割に上るそうです。簡単な難聴の検査方法があります。両腕をまっすぐ左右に伸ばします。そこで親指と人差し指をこすってみてください。左手でこする音を左耳で聞く。右手でこする音を右耳で聞く。ちゃんと聞こえるでしょうか。私は左耳が聞こえませんでした。少しずつ耳に近づけると聞こえてきます。しかし、右耳と比べると明らかに聞こえが悪いのです。どうやら私の左耳は軽度難聴のようです。今60代ですから、5割の中に入りました。私は左利きなので、いつも電話は左耳で聞きます。それも影響しているかもしれません。通常、85デシベルの音を8時間以上聞いていると、難聴になる危険性が高くなると言われています。大体、地下鉄の車内やパチンコ店内の騒音の大きさです。耳の健康のためには、大きな音を聞かないことが大事です。そうは言っても職業柄、そういう環境に身を置くしかない方もいると思います。また、剣道愛好家にも難聴が多いと言われます。それは、竹刀で面を叩く時に発生する音が大きいからです。

ただ、音の大きさを表すデシベル、音の高さを表わすヘルツという単位が分かりづらく、イメージしにくいと思います。雪の積もる音や息の音が10デシベル、木の葉の揺れる音や衣擦れが20デシベル、普通車のエンジン音が50デシベル、普通の話し声が60デシベル、幹線道路脇の車の騒音が80デシベル、花火が110デシベル、警報用大型サイレンが130デシベルです。音の高さを表わすのがヘルツです。1秒間に1個の山と谷がある音波が1ヘルツで、人間の耳は20~2万ヘルツの音が聞こえると言われます。ヘルツが大きいほど、音程が高くなります。アイウエオの母音は比較的低く、1000ヘルツです。ガ・ザ・ダ・バ行の有声子音は2000ヘルツ、カ・サ・タ・ハ行の無声子音は3000ヘルツです。加齢性難聴になると高い音が聞きづらくなるので、「加藤さん」と「佐藤さん」を聞き間違えたり、1(いち)と7(しち)と8(はち)を聞き間違えます。この続きは次号へ。