人生を豊かにする金言名句(3)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
情けは人の為ならず
たわいない話だと思いますが、私はその時、少し動揺していました。
不慣れな地方都市に、自動車でお客様を案内しました。緊急事態宣言下でしたから、夕方営業の店はほとんどなく、ようやく見つかった店へ。夕食をするためでした。
コインパーキングの看板を見つけた頃、辺りは薄暗くなっていて表示がよく読めません。どのスペースに停めたらいいのか分からず、とりあえず車を枠内に入れたものの、”何か変だ”と胸騒ぎがしました。
視線を遠くに向けると、駅前にホテルがありました。「そこへ行って相談してみよう」。対応してくれたのはベテランらしき女性でした。業務中にもかかわらず「駐車場へ行きましょう」と。その厚意の嬉しかったこと。私が停めたのは個人が契約したスペースであることが分かり、もし駐車違反で通報されていたらと思い、背筋が寒くなりました。ホテルが提携している一画がすぐ近くにあり、案内してもらうことができた時は、安堵の思いに浸りました。
その女性はまだいました。精算機(特殊なタイプ)の前で発券方法を説明するために。何から何までという感謝の気持ちがあふれ、心からのお礼を伝えたのは言うまでもありません。「情けは人の為ならず」ということわざが頭に浮かびました。私はこの言葉が好きです。「情け」が人から人へ伝わって、いつか自分にも巡ってくると思うからです。
解釈を間違えて、”情けを他人にかけるのはその人の為にならないから厳しく接しなさい”と捉える人もいるようです。文化庁が行った平成22年度の「国語に関する世論調査」によれば、ここに挙げた二つの意味がほぼ同数(約45%)だったそうです。11年も前の調査ですから、今は少し変化しているかもしれませんが。
「間違い駐車」で、私は情けをかけてもらいました。その女性はそうは思わないで親切にしてくれたのでしょう。それこそが「情け」だと思うのです。そして、もし「情け」の積み立てがあるとすれば、私は今回の出来事で使い切ってしまったかもしれません。これからの生活の中で、人の為になる言動をしていこうと心に期すのでした。