人生を豊かにする金言名句(8)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
科学の基本は国語
ノーベル賞受賞者同士が対談した本があります。それは、『「大発見」の思考法』(文春新書)で、益川敏英さん(2008年物理学賞)と山中伸弥さん(12年医学生理学賞)の二人が「大発見」「無駄」「考える」「一番」など、いろいろなテーマで語り合っています。この本の第1刷は11年ですが、その後も多くの人が手にしたようで、昨年21年には第6刷が発刊されています(この年に益川さんは亡くなりました)。
期待通り、随所にキラリと光る至言が出てきます。二人が口をそろえて言った「国語(力)が大切」ということ。益川さんはこう説明しています。「何にしてもすべて文章の言葉から入ってくる」と。物理学の大家が「計算力より読解力が大事」として、数学をどう捉えるかといえば「数式は基本的には言葉」だと。文章を読み解く力が何よりポイントになるということです。
私も、社会人になって文字を扱う職業に就きましたが、勉強不足が原因で苦労の連続でした。特に、海外に行くと「日本」や「日本語」を強く意識します。職業柄、外国語の新聞・雑誌や資料の翻訳はほぼ毎日やりました。大辞典であってもピンポイントの訳が載っているわけではありません。類推を重ねる作業はしょっちゅうでしたし、相当の時間を費やしました。原文の前後関係、単語のニュアンスなどを突き詰めていって”この意味か!”と発見できたりします。日本語の語源などから連想が広がる時は喜びでした。
外国語の会話も同じでした。言葉に詰まるのは当たり前。何とか言い換えられないか。「ほしい」を「必要だ」にするとか、「白だ」を「黒ではない」にするとか。特に、現地の病院に行けば表現せざるを得ません。必死になります。「日本語は、学習対象というより、生活であり文化だ」と気付かされ、ありがたく思いました。
「国語」を辞書で調べると、「国家の主体をなす民族が祖先から継承し、その国家の共通語となっている言語」(三省堂刊『辞海』)と。なかなか重みのある解説です。日本語を改めて見直して、しっかりと学び続け、きちんとした使い方をしていきたいものです。