人生を豊かにする金言名句(9)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
日にち薬 時薬
知らない日本語はたくさんあるものです。「日薬(ひぐすり)」。家内との会話で出てきました。「中国地方出身の友人が使っていたわよ」と。話の流れから、その意味合いはすぐ分かりましたが、聞いたことがない言葉でした。
とても良い語感です。ですが、国語辞典など、わが家にある辞書類をあれこれめくってみましたが、どこにも載っていません。インターネットで調べてみたところ、大まかに言って、西日本で使われていて、東日本ではほとんど使われていないことが分かりました。
デジタル大辞泉には、「日日(ひにち)薬」とあり、「月日の経過が薬代わりとなること」との解説。用例として「骨折には日日薬が一番だ」「日日薬で失恋から立ち直る」と出ていました。「日にち薬」とも書きます。
新型コロナウイルスが蔓延している昨今、ウイルスに感染したりワクチンの副反応が出たりして、体調がなかなか元に戻らない人がいます。身近な人や、知人、友人にもいました。「日にち薬だね」。そう声をかけることで、少しは優しい気持ちがこめられるのかなと思います。
メンタルヘルス・カウンセラーの根本和雄さんは、日刊紙の世界日報に定期的に原稿を掲載しています。その中で、日にち薬と同じ意味で「時薬(ときぐすり)」と言っています。同紙を過去検索でさかのぼってみたら、3度出ていました。いずれも根本さんの原稿。最初は2015年。「『時薬を大切にして生きる』~困難な問題こそじっと待つ時間が必要であるということ」と。最近ですと、「出来事は辛くても受け入れて噛み締めること~時が癒してくれる(時薬ということ)」とありました。
タイトルが『ときぐすり』という本もあります。作家・畠中恵さんの「まんまこと」シリーズの一冊。この中で時薬を「じやく」と読ませる話(意味も別)があるのですが、登場人物は「おらぁ、時は薬になるんだって思っちまった」と勘違いします。ストーリー展開を見ると、著者は「時は薬になりますね」と言いたいように思えました。
コロナ禍が続き、圧迫感や閉塞感を嫌でも抱く日々です。日にち薬、時薬という”妙薬”を見直す良い機会かもしれません。