機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」人生を豊かにする金言名句(10)

人生を豊かにする金言名句(10)local_offer

ジャーナリスト 岩田 均

李下(りか)に冠を正さず瓜田(がでん)に履(くつ)を納(い)れず

週に一度、夫婦で食料の買い出しに出かけます。いつも私はリストを作ります。そうしないと、一つ、二つと買い忘れるからです。家内は少し違います。メモを作っても、それに頼らず全品目を思い出せるかどうか、つまり「脳トレ」というわけです。メモを家に置き忘れることがあるので一理ありますが。

そして、次の段階。そのメモをどこに入れるか。シャツの胸ポケット、ズボンのポケット、バッグの中など。スーパーなどでは万引きが横行しています。バッグからスマホを取り出すだけでも憚(はばか)られる気がします。ですから、メモの出し入れを繰り返したら怪しい行為をしていると間違えられるかもしれません。

そんな思いもあって、最近は買い物かごの底に置くことにしました。これならメモを見ながら商品を探したり棚から取ったりしやすいからです。些細(ささい)なことなのですが、あれこれと考えることが増えた気がします。

漢の時代、中国には「古楽府(こがふ)」がありました。楽府というのは、漢の武帝が設置した役所のことですが、そこで集められた詩も指すそうです(旺文社『漢和辞典』第五版)。その詩の一つに「李下不正冠 瓜田不納履」とあり、君子のあるべき姿勢として、「疑いを招きやすい挙動は避けよ」(三省堂『辞海』金田一京助編)と戒めています。

漢文の直訳は「実を盗むと疑われるから李(すもも)の木の下で冠をかぶりなおさない。うり畑ではくつが脱げても、うり盗人と疑われないために、くつを拾ったりしない」(前出の『漢和辞典』)となります。のどかな風景が思い浮かぶ半面、人としての行いを律したピリッとした内容です。

今日のようにコンプライアンスが厳しく叫ばれていない頃、会社などの電話やコピー機を私用で使う人もいました。同僚が知れば良い気はしなかったかもしれません。悪いことをしていないのなら、何事も、またどんな時も、堂々とした態度でふるまえばよいのですが、人間のやること考えることは今も昔も同じ。肝に銘じたいものです。