人生を豊かにする金言名句(11)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
石の上にも三年
最近「我慢しなくていい」という言葉を目にしたり耳にしたりします。現代人の内面はそれだけ過敏になっているのでしょうか。ただ、言わんとする要点は、我慢すべきでない時は我慢しなくていいが、我慢すべき時には我慢した方がいいという両面があるのではないかということです。
「石の上にも三年」という言葉がいつ生まれたかは知りませんが、その時代は現代よりのんびりした生活を過ごしていたのでしょう。今日、3年といったら、随分長い期間のように思えます。
それでも、じっくり構えるという意味合いで、折に触れて思い浮かぶ言葉の一つです。例えば、引っ越し。わが家族は何度も引っ越しをしました。どんな物件でも間取り、家賃、交通の便など、どこかに不満がありました。そんな時、“石の上にも、だよ”と。少しは我慢してみようかな、もしかしたら時間が解決してくれるかな、と思って過ごしたものです。
あるいは、初めての仕事で途方に暮れた時。つぶやきのような感覚で“石の上だよなあ”と心に浮かびました。半ばあきらめでもあったのですが、気持ちを楽にしてくれたのも事実でした。
古典由来の高尚な比喩とは違い、とても易しい言い方です。多くの辞書や書物には「忍耐が大切」という解説が書かれています。あるいは、「冷たい石でも三年すわり続ければ暖まる」(三省堂『故事ことわざ・慣用句辞典』)という説明に続けて「不器用な男だが、石の上にも三年で…」と。どちらかと言えば、不器用な人に対して、根気強く続ければ「一人前」になれるよという励ましのように聞こえます。
年数が出てくるものに「桃栗三年柿八年」があります。自然界では、桃や栗は実を結ぶまでに3年、柿は8年かかります。決まった時間を待てば「結実」するわけです。昨今言われる「輝かなくていいよ」ですが、気長に月日を重ねて生きていこう、という示唆ではないでしょうか。人知れず、でも必ず咲く花のように。