人生を豊かにする金言名句(26)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
枝を矯(た)めて花を散らす
「なんじゃもんじゃ」という名前の木があるのをご存じでしょうか。私が知ったのは、今から15年から20年ほど前のことです。正式名称は「ヒトツバタゴ」(モクセイ科)と言います。白い花を咲かせるのですが、木全体が見える所まで下がると、まるで真っ白な雪が積もったようです。花一つ一つは細くて小さいのですが、遠目には大きな白い塊に見えるのです。
私がよく見に行くのは、20本くらい並んだ街路樹で、毎年ゴールデンウイークの前から咲いて1~2週間くらい楽しむことができます。今年は例年より10日ほど早く咲きましたが、その並木の姿は壮観でした。
ある時期まではバッサバッサと剪定されていたようで花は咲きませんでした。その後、近隣の人か誰かが気付いたのでしょうね、花が咲くんだ、大切にしようと。そこで名句を思い出しました。「枝を矯めて花を散らす」です。あまり使われていないかもしれませんが、意味は「少しの欠点を直そうとして、かえってそのもの自身を駄目にしてしまうこと」です。この解説は、同じ意味で使われる「角を矯めて牛を殺す」の項にあります(三省堂『故事ことわざ・慣用句辞典 第二版』)。
「矯める」というのは、矯正することですから、長所にするために短所を直すわけです。ところが、「牛の角が曲がっているのを直そうとして牛を殺してしまう」(同)ことが往々にしてあります。もう少しニュアンスを深掘りすると、「手段がその度を過ぎ、その物事全体をだめにする」(三省堂『辞海 金田一京助編』)ことだと。矯正が”やりすぎ”になってはいけないというわけです。このへんの塩梅(あんばい)が難しそうですね。
牛と角の両方が出てくる名言といえば、「蝸牛(かぎゅう)角上の争い」(『荘子(そうじ)』則陽篇)があります。「蝸牛」はかたつむり。そんな小さな生物の、その角の上での争いというのですから、どれほどちっぽけな話か。草木や動物は、人間にいろいろと示唆を与えてくれています。