機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」人生を豊かにする金言名句(33)

人生を豊かにする金言名句(33)local_offer

ジャーナリスト 岩田 均

山笑う 山眠る

俳句のテレビ番組で、お気に入りがあります。いわゆる教養バラエティーで、お笑いタレントらも多数出演して自作を披露します。ですが、だらけていません。なぜなら、俳人がきちっと添削をやり、分かりやすく講評してくれるし、出演者も真剣に取り組んで創作しているからです。

その俳人は、夏井いつきさん。この添削が絶妙で、日本語を操る魔術を見るようです。俳句には季語が必要ですが、春の季語「山笑う」はそこで知りました。その関連で冬の季語「山眠る」もありました。

山笑う。「新緑や花などによって、山全体が萌え始めた、華やかな春の山のようすを表した季語」(東邦出版『日本のことわざを心に刻む』)。一方、山眠る。「山全体が枯れて生気を失い、深い眠りに入ったように静まりかえる冬の山を形容した季語」(同)です。日本語って素敵だなと思います。

この趣を感じることは、都会にいたら難しいかもしれません。それでも、山にハイキングに行ったことがあるとか、あるいは、その昔、舗装された道路がまだ少なかったような時代の里山を覚えているとか、そんな人ならばこんな情景を思い浮かべることができるのではないでしょうか。

「障子山もぐらの穴も笑いけり」(夏井さん作)。「山笑う」を使った一句で、春を迎える嬉しさのような情感が漂っています。障子山(しょうじやま・標高885メートル)は、夏井さんの出身地・愛媛県にあります。

山と言えば森林。最近知った言葉の一つに「森厳(しんげん)」があります。「いかめしくおごそかなようす」(学研『現代新国語辞典改訂第六版』)だそうですが、「森」を使って「厳か」を表現するのは、日本の特色だと思います。それは古来の信仰を背景にしていますよと、只木良也氏(元京都府立林業大学校校長)が著書(丸善出版『続ことわざの生態学』)に書いています。大木を信仰の対象にしたり、神社仏閣の厳かさを森が演出したり、ですね。

日本語は奥深く無限に広がっていると感じます。母国語をしっかりと味わって日々を過ごしたいものです。