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家庭問題トータルカウンセラー 松本 雄司
具沢山の味噌汁と卵でフレイル予防(上)
一人暮らしは、食事に苦労する
今回は味噌汁の話です。奥様方を始め料理に詳しい方々には”釈迦に説法”ですから、どうぞお聞き流しください。
近年は高齢者だけでなく青年・中年でも一人暮らし世帯が増えています。一人暮らしになると、(特に男性の場合)食生活のあり方が大きな課題です。
また、統計によると、配偶者と死別・離別した後の男女の生存年数には大きな差があり、女性より男性の方が早死にする傾向があります。その原因は、男性は一人暮らしになると食生活が乱れやすく、健康を損なうことが多いからだと思われます。
実は、私も今では娘家族と同居ですが、妻が他界してから7年余りは一人暮らしでした。初めは外食が多かったのですが、食費がかさむので自炊に切り替えました。
しかし、仕事も忙しく、いつもスーパーの惣菜コーナーで買ってきた物ばかりでした。そうすると揚げ物が多くなり、野菜類が不足し、栄養に偏りが生じるようになったのです。
そこで、たどり着いたのが、”ご飯と具沢山の味噌汁”でした。忙しくてもご飯を炊き、味噌汁さえ作っておけば2日間は持ちます。後は、たんぱく質やカルシウムなどを摂るためのおかずが1~2品でもあれば十分です。
食糧難時代を生き抜いた両親の教訓
私が思い出すのは、「大変な時は”具だくさんの味噌汁”が一番!」と言っていた母の言葉です。母は調理師の免許を取って、小さな食堂から始めて割烹の経営までしてきたので、調理と栄養には詳しい人でした。
若いころ、岡山の会社に勤務していた母は不思議な縁で東京で洋服店を開業していた父と結婚しました。東京で新婚生活を始めたものの、戦況が悪化して空襲が増え、食料の配給も減ったので、妊娠を機に郷里の大分県に疎開し私の姉を出産しました。
その後、空襲は激化し父も疎開。そこで終戦を迎え、2年後に私が生まれました。
収入がなく、食料も手に入らない悲惨な戦中・戦後の時代を生きて、しかも、そんな時代に私たちを産んで育てあげてくれた両親の苦労を思うと本当に頭が下がります。
「時間がない、お金がない。そんな時でも具沢山の味噌汁があれば大丈夫」と言った母の言葉は、極限を生き抜いてきた経験から得た”実践栄養学”なのでしょう。
医師で作家の鎌田實(みのる)さんは、長野県で病院勤務をしながら県民の「健康づくり運動」を推進した時、特に、”十分な野菜とたんぱく質の摂取”を重視したそうです。
長野県は野菜は豊富でしたが、海がないので魚が少なく、その代わりに卵でタンパク質を摂ることを推奨しました。その結果、”野菜たっぷりの具沢山の味噌汁”と”卵”のお蔭で、長野県は平均寿命日本一になったそうです。
鎌田先生は、それを東京で一人暮らしの養父にも勧め、「1日卵3個と具沢山の味噌汁」を実践したところ、高齢になっても、とてもお元気でおられたそうです。
気になるのは塩分ですが、具沢山の味噌汁くらいなら問題はないとのことでした。
味噌汁は日本古来のソウルフード
さて、味噌の起源には諸説がありますが、元は「醤(しょう・ひしお)」と呼ぶ発酵食品を製造する過程で、醤になる前の状態のものがおいしかったので、それを「未醤」と呼んで利用するようになったようです。「ミショウ」から「ミソ」に転じたとされます。
平安時代は、味噌は調味料ではなく豆を塩漬けした保存食であり、身分の高い人しか手に入らず、つまんで食べたり、薬として利用されていました。
鎌倉時代には、すり鉢で粒味噌をすりつぶして水に溶かした”味噌汁”が生まれ、「一汁一菜」(主食、汁物、おかず、香の物)が武家の食事の伝統になりました。
室町時代には農民たちが自家製の味噌を造り、庶民にも広がって、江戸時代には味噌屋が大繁盛。味噌を使ったさまざまな料理と共に味噌汁が庶民の味として定着しました。
温かい味噌汁は、ほっこりとして、身も心も安らぎますね。
味噌汁は日本の風土に合い、日本人の体質に合った最高のソウルフードです。
具沢山の味噌汁の効用
研究者によれば、味噌は発酵食品なので腸内環境を整えます。また、原料である大豆のレシチンや食物繊維はコレステロールを抑制。さらに、ポリフェノールやビタミンE、イソフラボンは体内の酸化を抑制し、がんや生活習慣病、老化にも予防効果があるそうです。
このように、味噌だけでも健康に良いものですが、野菜や海藻など、具をたくさん入れると、さらに総合的な栄養素を補給することができます。
具の人気投票で1位は豆腐です。以下、わかめ、油揚げ、長ねぎ、じゃがいも、大根、玉ねぎ、なめこ、しじみ、里芋、あさり、卵、にんじん、なす、ほうれん草、えのき、もやし、麩(ふ)、豚肉、白菜の順でした。私の場合、具は3~4種類を入れますが、好みに応じて何でも試してみるとよいと思います。
味の決め手は”だし”ですが、今は「だしの素」という強い味方があります。
鎌田先生はフレイル対策として具沢山の味噌汁のほかに、たんぱく質の王様”卵”を推奨していますので、次号では”卵”の効用についてお話ししましょう。