春夏秋冬つれづれノートlocal_offerつれづれノート
ジャーナリスト 堀本和博
詩人や俳人の気分になれ心を豊かにさせる秋のふところは深い
〈くろがねの秋の風鈴鳴りにけり〉 飯田蛇笏(だこつ)。
武漢(中国)コロナ禍の中で長い梅雨寒の7月。猛暑日続きの8月。真夏日続きに猛暑日もあり厳しい残暑の中にメガ台風(9号、10号)が列島を吹き荒れた9月。二十四節気でははや晩秋となる10月を迎えるが、ようやく心を落ち着かせて本格的な秋、穏やかな日和を楽しめるのはこれからである。
冒頭は山梨の山村に腰を据え、自然に目を向け荘重な名句を残した蛇笏の代表句のひとつ。1962年10月3日に77歳で亡くなり、3日は没後58年の命日である。〈蛇笏の忌また新しき空が生れ〉 河村裕子。蛇笏を慕い、毎年の新しい秋晴れを愛でた孫弟子に当たる俳人の、こんな句もある。
秋の季語を見ていくと、「秋の日」「秋晴」「秋の空」「秋の雲」「秋の山」「秋の野」「秋風」「秋の雨」「秋の色」などと彩り豊かである。季語からいろいろな秋の情景が思い浮かんでくると、詩人や俳人になった気分にもなれて心が豊かになる。なかには「秋の声」という、「えっ、どんな声?」と思わず聞いてみたくなるものもあって、何やら楽しくなってくる。
俳人・長谷川櫂氏は秋の色について、〈色の無き色を重ねて秋は白〉 谷村和華子│の句を紹介して、こんな解説をしている。「四季にはそれぞれ色がある。春は青、夏は朱、冬は黒、そして秋は白」(読売・「四季」平成26年10月27 日付)。秋の白は透明という意味の白で、澄みきった大空の色であり、秋風の透明な色だというのである。
俳人の西村和子さんは、秋の色を「秋色(しゅうしょく)」という漢語から引いて、「秋の気配や景色を意味する」と説く(週刊「日本の歳時記」25・小学館)。自然界の彩りが最も豊かな秋の、「華やかでもあり淋しくもある」そんな季節の心象をいうのではないだろうか。
では「秋の声」は? これは大変に微妙な声である。「耳に聞こえるというものではない。心に感ずる音、すなわち秋の気配といったものである」(稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』)。具体的には秋やその深まりを感じさせる物音で、風の音や水音、ときに心の耳でしか聞こえない声だったりもするというから、とにかく秋はふところが深い。