機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」春夏秋冬つれづれノート

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ジャーナリスト 堀本和博

今月16日は日本初の天気図が作成された日。それから130年余、気象学は目覚ましく進歩した

さて、きょうは何を着て行くのがいいのかな? 外出するのがおっくうになったのは、中国・武漢発の新型コロナ禍のせいであるが、それでも出なければならない日がある。ヒートテックの下着を頼りに、出来ればコートなしでも暖かくしシンプルに、と考える。清潔なことは心がけても生来、見栄とかおしゃれとは無縁の人生を歩んできた。

2月は暦の上では春であっても、まだ寒さが身にしみる。陰暦の名称の如月は、「きさらぎ」と声にすると暖かさを感じる音感である。陽気がよくなりつつあるものの寒さが残る月。そこで、衣(きぬ)をさらに重ね着るので「衣更着(きさらぎ)」、あるいは時気がさらに発達して来るから「気更来(きさらぎ)」とか、春に向かい草木が更に芽吹きはじめる「生更来(きさらぎ)」などの意味があるという。

話を冒頭の「何を着るのか」考えることに戻すと、その際に頼りにするのは天気予報であり天気図である。その日の最低と最高気温は服を決める必要情報である。天気図を見ると天候の大凡(おおよそ)が分かり、傘をどうするかの判断がつく。

これらの天候情報の精度が最近、特に向上しているように思う。おかげで、極暖か、ただのヒートテックか、着心地のいい綿の下着か、コートも中に羽毛の袖無しを付けたり外したり。老骨の健康維持のため気温変化への対応に忙しいが、気象情報の収集は生活の中の最優先事である。

今月の16日は、今や日常生活に不可欠な天気図が日本で初めて東京気象台で作られた日である。明治16(1883)年のことで、ドイツ人気象学者のエルヴィン・クニッピングの指導によった。翌月から毎日、列島地図の所々に「○」や「●」の記号を付けて「晴」や「雨」を示しただけの単純なものであった。それから130年余。大雪、大雨、台風などの精度を増した災害予防情報など、気象学の進歩はめざましいものがある。

同じ16日(旧暦)は、文治6(1190)年に日本の伝統文学に大きな足跡を残した歌人・西行の命日である。だが、西行は「願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ」の歌にあるように、かねてから釈迦(しゃか)入滅の日(15日)の死を念願していた。その意を尊重して15日を忌日としたといういきさつがある。

〈栞(しをり)して山家集あり西行忌〉 高浜虚子。