機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」春夏秋冬つれづれノート

春夏秋冬つれづれノートlocal_offer

ジャーナリスト 堀本和博

山の春を喜ぶ一方で、3月はあの東日本大震災から10年となる節目の月に

山の四季を描いた表現に、中国の北宋の画家・郭煕(かくき)の『臥遊録』の一節がよく引用される。「春山淡冶(たんや)にして笑うが如く、夏山蒼翠(そうすい)として滴(したた)るが如し、秋山明浄(めいじょう)にして粧(よそお)うが如く、冬山惨淡(さんたん)として睡(ねむ)るが如し」とある。

四季それぞれの山の形容が言い得て妙だと感心させられる。

春は「山笑う」。「淡冶」は淡く艶(なまめ)かしい様で、淡い色で柔らかく芽吹く木の芽や緑色が日毎に鮮やかになっていく木の葉で覆われていく山全体が微笑んでいるように見える。そんなこころ弾む明るい季節がやってくるのだ。

冬ごもりに加えて新型コロナ禍の巣籠もりによる閉塞感を打ち払っての春、山の3月である。今年は節分が124年ぶりにいつもより1日早い先月2日、立春が3日、これが吹くと春の陽気が一気にくるという春一番が東京で吹いたのが史上最も早かった5日を更新して4日だった。

それから約ひと月。♪山の三月 そよ風吹いて どこかで春が生まれてる(「どこかで春が」百田宗治・作詩)や、♪春が来た 春が来た どこに来た 山に来た 里に来た 野にも来た(「春が来た」高野辰之・作詩)などの童謡フレーズをつい口ずさみたくなる日和となっていよう。

こういう山の春を喜ぶ一方で今年の3月は平成23(2011)年3月11日、あの東日本大震災から10年となる節目の月である。あれから7年となった平成30年。「もう7年なのか、いやまだ7年なのか」。政府の追悼式で、福島県の五十嵐ひで子さん(当時70)は自ら問い自ら「心の中で、いくら考えても導かれる答えが出てきません」と答えた。大津波で夫と叔父を亡くした。「あの時、『父ちゃん、早く逃げっぺ』の言葉さえ言えていたらと思うと、自分を責める気持ちでいっぱい」だったと言う。

そして、いまは震災の語り部として、震災とその教訓を風化させないために「『自分の命は、自分で守る』『逃げる意識』を伝え続けて」いく意思を語ったのである。10年の歳月は復興を進めてきたが、いまなお避難者が残っていること、震災の記憶と教訓を継承して次の震災への防災、減災の備えを忘れてはならないのである。