機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」春夏秋冬つれづれノート

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ジャーナリスト 森田清策

家族と仕事を愛した堀本和博さん

東京五輪の開幕が近づく6月14日昼頃、会社に行くと、先に出社していた社員が「堀本さんのこと、知っている?」と声を掛けてきた。亡くなったという。体調がすぐれないとは聞いていない。「人一倍、健康に注意していたのに」と、絶句するほかなかった。

堀本さんとの出会いは40年前にさかのぼる。入社した新聞社の社会部長をなさっており、その指導によって、私のジャーナリスト人生はスタートした。

パソコンのモニターを見ながら原稿を書く今と違い、当時は、原稿用紙に鉛筆で記事を書いた。それがいったん堀本さんの手に渡ると、原稿の方々に赤が入り原形が消えた。勉強のためにと、それを清書する日々。そして会社を辞めようかと悩み、実家に帰ると伝えると、黙ってお小遣いを渡してくださったことを昨日のことのように思い出す。

最近は、仕事場が違ったので、お会いするのは数カ月に一度程度だったが、決まって話題となったのは、ご自身で介護する奥様のことだった。医者が処方する薬のことや、介護の合間をぬって仕事をしていることなど、その話は小説の描写のようで必然長くなったが、その分、奥様やご家族への愛情と文章を綴ることへの情熱が伝わってきた。ともに250回にも及んだ新聞連載を担当したことがあった。「家内が森田さんの原稿をほめていたよ」と、奥様の話を持ち出した時の、子供のような笑顔が忘れられない。

長きにわたり、この欄を担当された堀本さんは、四季折々の変化に人の喜怒哀楽を重ね合わせながら、みんなの幸せを祈っておられたのだと思う。

本欄で最後の原稿となった7月号のテーマは、スポーツにも造詣が深かった堀本さんらしく「東京五輪」。コロナ禍という困難な状況の中での「平和の祭典」であるからこそ、そこに意義を見出しておられたことがよく分かる文章だった。私はそのメッセージに、どんな状況にあろうとも、真実を追求するジャーナリストとして筋を通そうとされた堀本さんの人生を見る思いがした。泉下でも五輪の成功を願っておられるだろう。

※編集部より 本欄執筆者だった堀本和博氏は6月14日、心筋梗塞のため急逝されました。享年73。堀本氏は平成12年から約22年にもわたって執筆を担当。ジャーナリストとしての長年の経験と教養から毎回、英知あふれるエッセーをよせていただき、ファンの読者もたくさんおりました。こころよりご冥福をお祈り申し上げます。