機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から(15)

福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から(15)local_offer

高橋 航(わたる)

仕事の向こうに目指すもの

私は、高齢者介護や障がい者支援を行う社会福祉法人の本部事務の仕事をしています。福祉の仕事に携わって10年目になります。

以前、友人の結婚式に招待された時、『あなたがいて、私になる。幸せには、きっと一人きりじゃたどり着けない~♪』という入場曲を聴き、相手を大切にしたいという思いが伝わってきました。私の勤める法人でも、歌詞にあるように、相手のことを常に優先して考えようという意味合いのシンプルな理念を掲げています。利用者様が高齢者であれ、障がい者であれ、発達障がいの方であれ、自分がその人の力になりたいという純粋な思いは、この仕事をする上で一番大切なものだと感じています。

しかし、それを実践するのは簡単ではありません。例えば、認知症の方が意思疎通ができずに怒っている時、また、障がいをお持ちの方から心無い対応をされた時、あるいは、発達障がいのお子さんを持つ保護者から理不尽な要求をされた時等々……。日常業務の中で、そのような事は頻繁に起こります。そんな時、「間違っているのはあなたです。悪いのは私ではない」という思いをグッとこらえ、頑張って乗り越えないといけないのは、多くの福祉従事者の大変な点です。

私も今は事務員ですが、最初は高齢者の介護の現場にいました。所が変わっても目指す理念は同じです。しかしこの理念は、やはり私にとっても「言うに易く行うは難し」でした。

相手の事を常に優先して考えようと思ったら、まずその前に相手が望まない言動を控えなければいけません。自分の言動が相手の迷惑になってはいないか、そして相手が願っている言動が何なのかを、四六時中意識するところから始まりました。

そして本気で実践してみると、自分がいかに相手のことを優先していない言動をしていたかを、嫌というほど痛感しました。そんな自分を変えるためには、自力の努力だけでは不十分と思い、周囲の職員にも「私の言動で修正すべきところがあれば言ってほしい」とお願いして取り組みました。

当時は30代で、人格としてある程度形ができているのを修正するため、たくさんの痛みを伴いました。それはまるで木の素材を彫刻刀で削って造形するように、自分の心の一部分を削り落としていく作業であり、精神的に苦しく、とても大変でした。

しかし、数年間取り組みを続けると、相手のことを優先して考えるという理念は、次第に自分のものになり、仕事での人間関係がスムーズになりました。

すると不思議なことに、私の家庭においても妻との関係が円満になり正直驚きました。理念には、自分が思った以上の力があったのです。

このように、目指すものがあることで、単に仕事をするだけでなく、自分自身を成長させることができ、結果的に仕事やプライベートに良い影響があるなら、一層仕事のやりがいが増すのではないでしょうか。

私の勤務する法人は事業所も職員も増えたため、働く職員の意識の共有が難しくなっています。だからこそ、一人ひとりが理念を自分のものにしようと努力することで、仕事を通して社会に対し一つの影響力になっていくのではないかと希望に感じています。