福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から(48)local_offer福祉のこころ
社会福祉士・精神保健福祉士 末吉重人
家庭的社会福祉論(下)
養育機能
これは子どもを育てる機能という意味です。生殖機能の項でも述べましたが、発達論的に考えて、子どもは争いのない両親のもとで育つのがスムーズです。乳幼児の頃には存在のすべてを受け入れてもらえる受容的父母愛を受け、成長するにつれ社会的ルールを学ぶ規範的父母愛を受ける、この環境は家庭のなかに据えられています(父母愛とは両親が協力して子どもを愛する愛のこと)。これを人為的に行う場合、様々な工夫をしても足りない面が生じます。
老親扶養機能
ここからはマードックの四機能説にはない機能です。マードックはアメリカ人であり、その文化から老親を扶養するとの習慣はないかもしれません。しかし日本やアジアにはそうした慣習があり、それは保持すべきものだと思います。真の家庭運動は三世代家族の形成を推奨していますので、そこに老親扶養は不可欠です。
しかしその際、介護が家族の過剰な負担になってはいけません。広く社会資源を利用することが重要ですが、どのような状態であれ、最後まで家族が関わることが重要です。
普遍的価値の継承
普遍的価値とは、人を大切にすること、ために生きることと仮定してみましょう。人は、自分が愛されること、受け入れられることで他人を愛し、他人のために生きることができるようになります。
人が無条件で愛され受け入れられる場こそ、幼少期の家庭環境です(被虐待児の場合、そうでないことが大きな悲劇となる)。したがって、家庭は普遍的価値を子弟に継承させる場になるのです。両親がそういう場であることを意識して、子どもに接することでその機能は強化されるでしょう。
家庭の機能と社会福祉
家族が行っていた機能を社会が代替しているものが、社会福祉であるとの立場に立つと、両者の関係が明らかになります。「性的機能」の代替は、性倫理的にも社会にないと考えるべきでしょう。「経済的機能」は、生活のための稼得の代替ですが、生活保護・三種の児童手当・ホームレス支援等の生活困窮者支援がそれに当たります。
「生殖機能」は、代理出産が社会的に存在しますが、わが国では認められていませんのでこれを代替とするべきかは議論の余地があります。養子縁組などは該当するでしょう。「養育機能」は先に述べた児童養護施設・乳児院・各種の児童福祉施設などが該当します。養子制度も含まれます。
「老親扶養」は介護保険制度が代表的な代替です。紙面の制約で、詳しく述べることができませんでしたが、社会福祉を家族機能との関係で捉えなおすことは、家庭を基盤にした社会を再建しようとする際、重要なテーマだと思い、筆を置きます。連載へのお付き合い、誠にありがとうございました。
(社会学修士・宗教教育学修士)