福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から(53)local_offer福祉のこころ
ケアマネジャー(介護支援専門員) 増田佳美
認知症のケアで大切なこと
現在、人口の3割以上が65歳以上の高齢者で、2025年には700万人が認知症になると推計されています。65歳以上の5人に1人が認知症になるということなので、誰もが関わりをもつ可能性があります。
認知症は、何かしらの病気が原因で脳の機能が低下して起こりますが、その代表的なものに、「アルツハイマー型」「脳血管性型」「レビー小体型」「前頭側頭型」の四つの型があります。それぞれに症状の出方や進行過程に特徴があり、対処法も違います。
次に、症状ですが「中核症状」と「周辺症状」があります。
中核症状には「物忘れなどの記憶障害」「時間・場所・人がわからなくなる見当識障害」「理解力・判断力が低下する障害」などがあり、認知症の人なら誰にでも出現する可能性があります。
そして、周辺症状とは、その人の性格や周囲との関わりで、起きたり起きなかったりするものですが、主なものに「妄想・抑うつ・意欲低下・幻覚などの精神症状」と、「徘徊・興奮・暴力・暴言・帰宅願望などの行動症状」があります。
これらの症状は、認知症の約8割の人に見られ、介護者のストレスの大きな原因にもなっています。中核症状によって不安定な状態にある人が、思いをうまく表現できないために周辺症状として表れてくるのです。声にならない内面のメッセージとも言えます。これは、適切にケアすることで中核症状だけにすることができます。
いずれにしても、初期症状に気づき、早期治療に結びつけることが大切です。「軽度認知障害(MCI)」という認知症予備段階のときに治療を開始することで進行を食い止めることができる場合もあります。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症等を予防し、脳梗塞、脳出血の発症や再発を防ぐことも、認知症の進行を食い止める大切な要素といえるでしょう。
さて、認知症のケアでとても大切なことは、その人の「尊厳を守る」ことです。たとえ理解力が低下していても、その人の歴史がなくなるわけではなく、不可解に思える言動にしても、必ずその背後に理由があります。ただ問題行動としての対応をするだけではなく、その人のこれまでの人生や価値観を理解し、なぜこういう言動なのかと考えてみることが重要です。
具体的な接し方で大切なことは、良い感情を残すよう心がけることです。認知症の人は事実関係を忘れても、感情は長く心に残ります。穏やかな感情を引き出してあげ、信頼関係を築くことが大切です。そのためには、
- 「笑顔で接する」――相手の表情から喜怒哀楽の感情を読み取る能力は保っています。
- 「本人のペースに合わせる」――考えたりするスピードは低下しても何もできないわけではありません。
- 「自尊心を傷つけない」――本人にとっては本当のことなので、間違いを指摘せず、優しく受け止めましょう。
ところで、身内の認知症介護は簡単ではありません。病気だとわかっていても腹の立つことは多くあります。介護者も心身の疲れを溜めないよう、素直な気持ちを相手に伝え、また、周囲の人に支援を求めることも大切なことです。