福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から (28)local_offer福祉のこころ
医療法人事務管理職 加納哲也
在宅での看取りについて思うこと
妻は10年前に乳ガンの手術をしましたが、1年半前には背骨、肝臓、腎臓にガンが再発し、その後、抗ガン剤投与を行ってきました。今年の2月末には投与を中止せざるを得なくなり、7月に自宅で妻の最期を家族と共に看取りました。
2012年度の人口動態統計年報によれば、自宅で最期を迎えたい人の割合は54.6%で、ガン末期の人でも70%以上の人が望んでいます。しかし、実際に自宅で最期の時を迎えられた人は10%程度に過ぎないようです。
今回、終末期医療(ターミナルケア)から看取りまでを自宅で実行できた体験から、四つの点について述べたいと思います。
1 本人と家族の話し合い、意思決定について
「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」といいますが、どのような医療や介護を受けて最期を迎えたいかを、2月末に医師と夫婦で話し合い、子供達の同意も得ました。そして、6月20日には”もう1カ月しか時間がないかもしれない”、”コロナ禍で入院させた場合には面会謝絶になるし、そんな寂しい思いをさせたくない、家で看取りたい”と、本人と家族みんなで話し合い、決意しました。
2 訪問診療・訪問看護について
親しくしている訪問看護師に相談し、週1回の訪問診療と訪問看護が6月24日から始まりました。浮むく 腫みを取るマッサージ方法、呼吸が苦しくなった時の姿勢、腹痛に対しては薬を嫌がる妻には腹部マッサージを行う、全身の痛み止めのロキソプロフェン使用は5日前から、麻薬フェントステープは3日前に、など、相談しながらペインコントロールができました。そして、「亡くなるまでのプロセス」として、尿や血圧、意識など全身の状況の変化について、および努力呼吸から下顎呼吸へ移行などについて教えてもらい、とても安心できました。
在宅医療を24時間体制で実施している機関はまだ少ないです。高齢化社会の進展に伴い、ニーズは高まるばかりではないかと思います。
3 ケアマネジャーと介護サービスについて
今回の訪問看護師はケアマネジャーでもありましたので、ケアプランがすぐに作られ、ベッドなどの介護用具のレンタル、呼吸が苦しくなってからの在宅酸素療法や訪問入浴などの手配も迅速に行われました。在宅での看取りを行うには介護サービスの制度を有効に使うことが必須です。その管理をするのがケアマネジャーですので、信頼でき、率直に話ができる方を選ぶべきだと思いました。
4 家族の介護力について
在宅医療がたとえ24時間体制であっても、夜間はやはり家族による介護が必要でした。夜中ずっと痛いところに手をあててあげることが多くありました。トイレにひとりで行こうとする意志が強く、2回3回と起こされました。トイレに間に合わず、私はウンチまみれになったこともありました。真夜中に大騒ぎです。でも、妻はその後とても穏やかな顔で眠ります。
息子が介護休暇を取得して夫婦で帰ってきたので、私と娘のペアと交代で夜の介護をすることができました。
近年は独居老人、老々家族、少子化などで「家族の介護力」が弱くなってきています。地域包括ケアシステムでいう「互助」の精神で、地域や親しい人たちが助けあって「家族の介護力」になることができないものでしょうか。
本欄は、TLSC(True Life Support Center:トゥルーライフ・サポートセンター)のメンバーが交替で執筆するものです。
TLSCは、医療・福祉の専門家有志が、人類一家族の理想実現を医療・福祉分野の視点から研究し運営しています。