機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から (31)

福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から (31)local_offer

家族が認知症になったときに大切なこと

Q 70歳の母親が認知症と診断されました。これからどうなっていくのか不安でいっぱいです。

ご家族が認知症とわかって戸惑われていることでしょう。2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になるだろうと推計されています。ほんとうに他人事ではありません。認知症とはどのような症状があり、どのように対応すればいいのか、正しい知識を持って受け容れることができたらいいと思います。

認知症は何らかの原因によって脳が病的に変化し、記憶などの知的な働き(認知機能)が低下していく病気です。認知機能が徐々に低下し、それに伴って様々な症状が現れてきます。その症状には、物忘れ、時間や場所がわからない、判断や理解ができないなどの「中核症状」と、認知症が進むにつれ現れてくる「周辺症状」があります。

この「周辺症状」は、人によって現れ方は違いますが、介護者の精神的負担を増やし、ストレスの原因になっているケースが多いです。初期には、自分でできていたことができなくなり、「生きていても仕方ない」という思いになって抑うつ状態になります。さらに被害妄想、幻視幻聴、徘徊、昼夜逆転、暴言暴力、不潔行為など様々な症状が現れてきます。これらの症状は薬の服用や介護の仕方を工夫することで軽減することはできます。しかし、誰にでも有効な、同じ介護方法というものはないのかもしれません。

介護で大切なことは、次のような事柄です。参考にして、是非、工夫してみてください。

  1. 認知症の人のことをよく知り、その人に合った接し方を見つけること。何もかもできなくなるのではなく、できることも沢山あること。一人ひとりに生きてきた歴史(生活習慣・価値観等々)があることを理解しましょう。
  2. 話の間違いを指摘したり、否定したりしないこと。本人にとっては本当のことなので、まずは同調する言葉を返すようにしましょう。
  3. 常識を押し付けたり、怒ったりしないこと。出来事は忘れても、怒られたという感情だけは残ってしまうからです。
  4. 症状に応じた可能な範囲で、安全な生活環境を整えること。
  5. 独りで抱え込まないこと。認知症の方からは、むき出しの感情をぶつけられることがあり、精神的に傷つき疲弊することもあります。誰にでも限界があります。周囲に相談できる人を見つけましょう。

さて、認知症のかたは自分のことをどのように感じているのでしょうか。当事者の体験談によると、本人は記憶や判断力、見当識の力が薄れて行き、現実世界を適切に把握できず、見知らぬ世界に迷い込んだようで、不安と緊張の中にいるそうです。そして、現実世界のスピードに追いついていけず、焦りや孤独を体験します。周囲の声や雑音、日常の刺激が、自分に降り注ぐ矢のように感じられ、引きこもってしまうこともあります。痛みや空腹などの不快な状態に対処できず混乱し、怒りさえ覚えます。それらが積み重なって自分自身が壊れていくような体験をしているそうです。新しいことは記憶になく、過去の大切な出来事や人との記憶をつなぎ合わせ、自分の世界を保とうとしているのです。

認知症高齢者の家族と共に生きるということ、当事者の人生に寄り添って暮らすということ……。そこには、何か新しい世界が生まれるのかもしれません。そして決して介護者は独りではないということを忘れないで下さい。