福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から (32)local_offer福祉のこころ
必要なヤングケアラーへの理解と支援
ケアマネジャー(介護支援専門員) 増田佳美
私は高齢者の在宅生活を支援するケアマネジャーをしていますが、最近感じることは、高齢者を介護する家族への支援も、とても重要だということです。
「老々介護」や「8050問題」という言葉は耳にしたことがあると思いますが、「ヤングケアラー問題」や「老孫介護」についてはいかがでしょうか。実態はまだよく把握されていませんが、深刻な状況だともいわれています。
ヤングケアラーとは、18歳未満で通学や仕事をする傍ら、障がいや病気のある親や祖父母、兄弟等の介護をしている子供のことです。家庭内で介護が必要な状態にあっても支える人手が足りない場合、子供でも介護や世話をする状況が生じているのです。介護のために進学や就職を諦めたりしてしまうこともあります。
2019年に、孫娘が、認知症で要介護4の祖母の介護中に、口にタオルを押し込み窒息死させた事件がありました。祖母には3人の子供がおり、近所に住んでいましたが、各々事情があり介護はできないといって、孫娘に介護を任せていました。
孫娘は、自分の夢だった幼稚園教諭として働き始めたばかりの社会人1年生。祖母は自分で排せつや身の回りの行為ができない上、徘徊が多くなり目が離せない状態でした。平日はデイサービスに通っていましたが、夜間と土日は孫娘が付きっ切りで介護していました。睡眠時間は2時間ほどだったそうです。介護と仕事の両立に苦しんだ末の事件でした。裁判では22歳の孫娘が置かれた過酷で孤独な介護の現状が明らかにされ、孫娘は「限界だった」と言っています。
なぜそこまで追い詰められたのでしょうか。この祖母の担当ケアマネジャーは孫娘と会う機会はなく、孫娘もケアマネジャーと連絡を取ることを家族から禁止されていたとのことでした。もし、誰かに相談できていれば、気付いて声を掛けることができたでしょう。踏み込んで悩みを聞いてあげる誰かが身近にいれば、状況は違っていただろうと思わずにはいられません。
介護の大変さは、介護の経験がない人にはわかってもらえないことも多い中、ましてや若い世代である青春真っ最中の友人には話しにくいことです。そうした閉ざされた生活意識の中で、ヤングケアラーの多くは社会的孤立と将来への不安を抱えながら介護を続けています。誰か気持ちを受けとめ、ねぎらい、評価してくれる人が必要です。ヤングケアラーの経験のある人が、「介護も辛かったけれど、相談することや愚痴をこぼすことができなかったことがもっと辛かった」と話しています。
昨今は、晩婚化などの影響により、子供が成人を迎える前に、その子の親が病気などで倒れて要介護状態になったり、要介護状態の祖父母世代と同居している場合、親世代が仕事で忙しくて介護を担いきれず、代わりに子供世代が介護を引き受けたりという状況が増えているということでしょうか。
介護専門職のひとりとして、子供の親を大事に思う気持ちに配慮しながらも、どのような支援ができるのかよく考え、高齢者だけではなく、次代を担う若者の現実にも目を向けなければいけないと改めて感じるこの頃です。
本欄は、TLSC(True Life Support Center:トゥルーライフ・サポートセンター)のメンバーが交替で執筆するものです。
TLSCは、医療・福祉の専門家有志が、人類一家族の理想実現を医療・福祉分野の視点から研究し運営しています。