福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から (36)local_offer福祉のこころ
ケアマネジャー(介護支援専門員) 増田佳美
介護職が身内の介護をするということ
介護の仕事に就きながら、自宅でも自分の家族の介護をしているという人が結構います。介護職は専門家なので、「身内の介護が必要になっても適切に介護ができるはず」と思われがちです。しかし、仕事としての介護と身内を介護するのとでは大きな違いがあります。介護職からは「身内の介護は冷静になれず、理想の介護ができない」という話を聞きます。
介護職としての立場に立つと、「正しい介護者像」を求めて仕事をするので、帰宅して現実に家族を介護する際には、そのギャップに落ち込んでしまったりします。介護の知識や技術はありますが、それだけでは乗り切れないのが家族を介護することの難しさです。介護福祉士や介護ヘルパー(旧称)などの資格があっても、そのときの立場はあくまでも家族であり、介護の”仕事”ではないのです。
家族の介護の場合には、介護が必要になるまで共に過ごした時間があり、その家族との多くの思い出があります。しかし、仕事として介護に関わる場合は、要介護者が余命が限られていたり、認知症高齢者であったりして、出会った時からすでに介護の必要な人であると客観的に捉えることができます。だから、たとえ嫌なことを言われたり、対応に困難なことがあったりしても、その日の仕事を終えれば、帰宅して自分の時間が持て、気持ちを切り替えて次の日の介護の仕事に臨むことができるのです。
介護の現場では限られた時間内にいかに必要な支援をし、利用者さんに喜んでもらえるかを考え、やさしい声掛けもできます。しかし、家族になるとそうはいきません。ちょっとした粗相でも腹が立ってしまったり、悲しくなったりします。
仕事上では客観的に受け止められ、気にならないようなことも、家族の介護となると、様々な思いが出てきます。また、介護してくださるスタッフに多くのことを要求してしまったり、あるいは逆に介護職の事情が分かるだけに遠慮して、十分な支援をお願いできなかったりするかもしれません。
私は数年前に義母を見送りました。義母は認知症で10年近く在宅で介護され、最後の2年間は老人保健施設に入所しました。最初はうつ症状が強く、ほとんど閉じこもった生活でした。介護していた義父は、義母を子供のように大切に世話していましたが、義母が認知症状の進行で徘徊を繰り返し、常時目が離せない状態になり、徐々に変わっていく姿に戸惑い苛立ちました。大声で怒鳴ったり、周囲に当たったりすることも増えていきました。それでも様々な介護サービスを利用し在宅介護を継続していましたが、義父は体調を崩して入院、殆ど介護を受けることなく、予期せず短い期間で亡くなりました。私たち家族は、その後もしばらくは義母を在宅で看ていましたが、常時見守ることは困難なので、施設に入所させることを決心したのでした。
義父母の介護を通して、理想の介護を求めながらも、家族間の介護に対する思いのずれや自分自身の心身の限界に戸惑うこともありました。一方、家族介護者として経験したからこそ分かることもあり、介護専門職としての自己覚知に至りました。「介護には正解はない」と言い聞かせながら、できる限り、ご本人やそのご家族に寄り添い、後悔しないような支援をしたいと、介護の仕事に向かう毎日です。