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APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」芸術と家庭・・・文学編(17)

芸術と家庭・・・文学編(17)local_offer

長島光央

結婚までも神秘的

イェイツの詩:『再臨』

ウィリアム・バトラー・イェイツ(1865~1939)は、アイルランドの詩人で、ノーベル賞を受賞した(1923年)人物です。彼の作風は神秘主義的で、アイルランドの大地と空気、湖水などを飛び交う妖精で、満ち満ちています。幻想的な作家と言ってもよいでしょう。

イェイツの作品の中に、1921年に発表された『再臨』という表題の詩があります。短い詩ですが、以下にその詩の一部を掲げてみます。

広がりゆく渦を描いてぐるぐる回る 鷹には鷹匠の声が聞こえない 物事は崩れ行き中心は支えきれない 全くの無秩序が世界に放たれ 血の色の潮が放たれ 至る所で無垢なる儀式が飲み込まれる 最善なるものが確信を全く失い 最悪なるものが強烈な勢いに満ちている 啓示が間近に迫っているに違いない 再臨が間近に迫っているに違いない 再臨!

「最善なるものが確信を失う」、「最悪なるものが強烈な勢いに満ちる」というのを、悪(サタン)の猛烈な勢いの前に、善(宗教、特に欧米キリスト教)が救いの確信を失うことだと解釈するならば、1921年というこの詩の発表時期から考え、悪とはレーニンの革命によってソ連共産主義が誕生したことであり、欧米のキリスト教世界が、共産主義の登場の前に震えおののいている状況であるとも取れます。

いずれにせよ、イェイツは、1921年の世界情勢から、歴史の中に「大いなる混沌」を見たのです。そして、そういう状況の中で、再臨への期待を抱いたのです。メシヤの再臨こそが人類の希望であると感じたのです。

日本と関係の深いイェイツ

イェイツは、日本文化に強く惹かれ、日本の「能」の文化に大きな関心を寄せた作家として知られています。

イェイツは、『鷹の井戸』という一幕物の戯曲を書いていますが、これは、能舞台を参考にして書かれた作品であり、彼の代表作の一つに数えられています。能が能面を使用するように、仮面の効用を意識したのがイェイツであり、それを『鷹の井戸』で試したと見ることができます。

登場人物は、3人の楽人、井戸の守り手、老人、そして若者です。井戸は荒れて水も涸れ果てているのですが、時々、噴出することがあり、その水を飲むことができれば、不死を得ることができるといいます。

老人は、その水を飲もうと長い間、井戸端に座り込んで待っているうちに年老いてしまったと言います。肝心の水が噴き出る瞬間に疲れて眠りこけてしまい、結局、水を飲めないまま、人生を浪費し、このように年老いたのだと若者(クー・フーリン)に言い聞かせるのです。

井戸の守り手というのが、どこからともなく現れる鷹なのですが、水が噴き出す瞬間が訪れて、若者はその水を飲む機会を得たにもかかわらず、鷹に魅了され、ついに水を飲めなくされてしまいました。それゆえに、不死を得たいと思った若者もまた、老人と同様に、不死を得ることができなかったという話です。そういう戯曲を、能舞台風に演じる作品にしたのです。『鷹の井戸』の舞台は、抽象的、象徴的、儀礼的な様式を取ります。

イェイツの結婚

イェイツの結婚は、52歳の時です。ずいぶん遅い結婚です。イェイツには結婚願望がなかったのでしょうか。そうではありません。イェイツは、1899年、英国軍人の娘、モード・ゴンと出会い、間もなくして求婚しますが断られます。彼女に対する思いはずっと続いていたようです。

1917年、52歳になったイェイツは、25歳のジョージー・ハイドリーズと結婚します。ジョージーは、霊媒のように脳裏に浮かぶ言葉を次々に話す能力を持っていたため、イェイツは彼女の言葉を自身の作品に取り入れ、神秘思想の集大成『ビジョン』を完成しました(1937年)。ジョージーとの結婚は、天と地、霊界と地上界という二つの世界の合一を表すような結婚となりました。

数々のインスピレーションを得たイェイツは、73歳の死を迎える晩年に至るまで、ジョージーの言葉を作品の源として、創作活動に集中しました。その意味で、イェイツは、彼の作品同様、結婚までも神秘的であったと言えるでしょう。