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APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」チョッとためになる健康のお話(5)

チョッとためになる健康のお話(5)local_offer

健康アドバイザー 上杉和彦

ミトコンドリアとがん細胞

雨の多い季節になってきました。小さい頃、我が家には番傘と黒いこうもり傘がありました。番傘は紙、こうもり傘は黒い布でした。番傘は油を引いた紙なので、外の明るさが通って気持ちが良く、竹の骨もきれいで、油の匂いも好きでした。ただ、閉じてもかさ張り、よく破れるのが厄介でした。今はビニール傘がその役割を果たしていますが、残念ながら風情はないですね。

ゴールデンウィークは田舎に帰ったのですが、標高が高いので、山々の緑は若草色から黄緑、緑、濃い緑と紅葉に匹敵するぐらい、グラデーションがきれいでした。これが梅雨を迎えるころには緑一色に変わります。

では、この色の変化がなぜ起こるのかというと、植物の細胞の中にあるミトコンドリアがエネルギーを作っているからです。人間もエネルギー発電所と呼ばれるミトコンドリアがエネルギーを作っているので、一つ一つの細胞は役割を果たすことが出来ます。このミトコンドリアが発電するために必要なものが酸素とブドウ糖です。ブドウ糖は足りなくなれば、脂肪やたんぱく質を分解して、いくらでも作ることが出来ます。ですから、何も食べずに水だけで何十日も生きるというのは可能です。しかし、酸素がなくなったら、3、4分で死んでしまいます。特に脳細胞は酸素が必要で、仮に蘇生できたとしても重い後遺症が残ることがあります。このように、酸素が薄くなって息苦しくなるのは、ミトコンドリアが発電できなくなって、細胞が死んでしまうからなのです。

ところで、驚くことに酸素がなくても発電できるミトコンドリアがあります。それが、がん細胞のミトコンドリアです。大したもんだと思いますが、突然変異でなるのでも、好き好んでなるのでもありません。止むに止まれぬ事情に追い込まれてそうなるのです。

がんの別名は生活習慣病です。特に食生活です。がんの罹患数と死亡数が急速に増え始めたのは、1960年代の高度経済成長期に入ってからです。それまでのダントツトップは脳疾患でした。それも血管が詰まって起きる脳梗塞ではなく、血管が破れて起きる脳内出血です。その原因はたんぱく質と脂質の不足でした。そのため、農村をキッチンカーが回って西洋料理や中華料理の作り方を教え、たんぱく質と脂質をたくさん摂るように指導しました。ごはんよりパン、魚より肉、煮物より揚げ物、みそ汁より牛乳、まんじゅうよりケーキ、せんべいよりスナック菓子等々。食生活が急速に欧米化しました。その結果、高血糖、高脂血となり、血管が破れることはなくなったのですが、詰まるようになり、酸素が十分に行き渡らなくなったのです。

ご存じのように、肺から取り入れた酸素は赤血球のヘモグロビンに取り込まれて、最後は毛細血管という一番細い血管を通って、各細胞まで届けられます。赤血球はとても柔らかいので、自らを二つ折りにして毛細血管を通って行きます。ところが血管の壁が糖や中性脂肪やコレステロールによって、劣化し炎症を起こすと、内径が狭くなって、赤血球が通りにくくなります。さあ、細胞にとっては命綱である酸素が来なくなったら一大事。この続きは次号にて。