人生を豊かにする金言名句(14)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
疾風に勁草(けいそう)を知る
オリンピックのゴールドメダリスト、女子マラソンの高橋尚子さんには、「座右の銘」が三つあります。インターネットを見ると、あちこちでそう紹介されています。その一つが、今月の名句。高校時代の陸上部顧問から言われた言葉だそうです。
もともとは、中国の歴史書の一つ、『後漢書』の王覇伝に出てくる逸話。意味は、「強い風が吹いて弱い草が倒れ伏して、はじめて強い草の存在がわかる。困難に会ってはじめて節操のかたいことがわかる」(旺文社『漢和辞典』第五版)です。
古代中国の出来事です。戦いの情勢が一転して悪化した時、従軍していた部隊の仲間が次々に離脱していってしまいました。そんな中でも唯一、王覇だけは残って忠誠を尽くしました。その部隊を率いていたのは劉秀。すなわち、光武帝とも呼ばれる後漢の帝(みかど)でした。帝は王覇に向かって「疾風知勁草」と言ったわけです。
とても分かりやすい故事のせいか、いろいろな企業や学校、自治体などで、この言葉を教訓としたり、揮毫にして掲示したりしています。状況が良い時は目立たないのでしょうけれど、悪くなった時に問題が表れるものです。天気で言ったら暴風雨の中を前進しなければならない時もあるでしょう。それでも、不安に駆られず、不信をせず、誠意をもって一歩一歩前へ進むことができるかどうか。
高橋尚子さんは、そんな状況を「竹」にたとえるようです。強風が吹いた時、大木は意外と折れやすいけれど、竹は見事にしなって、その風の力をかわしてしまいます。そういう対応力、柔軟性を培うことが大切だと考えたのです。
コロナ禍、ウクライナ侵略による国際情勢の不安定化、独裁国家の台頭、テロなど、難題が山積している現代です。国際的な感性を持つリーダーがなかなか登場しないと言われる日本。それでも、誰もが「勁草」となって、家庭や職場などで力を発揮していきたいと願うものです。