人生を豊かにする金言名句(19)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
腹が立つなら親を思い出せ
テレビを見て、新聞を読んで、インターネット情報で、人間関係で――と、現代社会を生きていく中で、腹が立つことにたくさん出合います。そんな時、「十数えよ」と言われたことがあります。確かに、十数えるうちに怒りは収まるでしょう。ただ、そんな冷静さがその時に保てているかという問題は残ります。
「親を思い出せ」と言うのも同じ意味ですが、現代社会では今一つピンとこないかもしれませんね。「自分をいつくしんでくれた親のことを思い浮かべるのが良い。自然に気持ちがなごやかになり…」(三省堂『故事ことわざ・慣用句辞典 第二版』から)と言われればその通りですし、そうありたいと思います。とにもかくにも、感情のままに怒ることは何とか収めたいものです。
怖いことわざの一つに「人を呪わば穴二つ」があります。「穴」とは「墓穴」のこと。他人の不幸を願ったり他人の災いを求めたりすると、その報いが自分に跳ね返ってきてしまう、もし相手の穴ができたら次に自分の穴が別にできてしまうというわけです。戒めの言葉ですね。
そして、「腹が立つ」という言い方です。何が立つのでしょうか。「腹の中には考えや心の動きが収まっている」ので「感情が激する、興奮した状態になる」時に「立つ」が使われます(東方出版『日本のことわざを心に刻む』から)。「腹に据えかねる」「腹に収める」など、腹を使った慣用句は多数あります。意味合いは類推できます。
怒りは誰にも起きるものです。私は中学生の頃、プロ野球のあるチームの大ファンでした。そのチームが負けると、そのたびに悔しくて仕方がありません。”なぜ負けるんだ!”と腹立たしくなって、家族に当たったり何も手につかなくなったり。そんなある時、ふと”気付いて”しまいました。「そうか、弱いから負けるんだ」と。悟りと言ったら語弊がありますが、不思議な感覚でした。以後、野球の結果であまり感情的にならなくなりました。これを級友に話したら、「お前、そんなふうに考えるのか」と半ば呆れられました。
親を思い出すのは、立腹の時ではなくて、孝行する時、面影をしのぶ時にしたいものですね。