人生を豊かにする金言名句(22)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
千丈の堤も螻蟻(ろうぎ)の穴を以(もっ)て潰(つい)ゆ
少し難しい句ですが、多くの人が過去も現在も、同じ思いを抱いたのだろうと思います。というのも、「千里の道も一歩より」など同類の諺(ことわざ)が多数あるからです。
「千」は、「一日千秋の思い」などと使われるように、大変長いことの比喩。ですから、千丈はとんでもなく長いという意味です。また、「丈」は尺貫法(日本古来の計量法)でいう長さの単位で、約3メートル。例えば、政界では「一寸先は闇」と言いますが、「一寸」は1丈の100分の1。つまり約3センチ。行く先が真っ暗で、どう展開するのか分からない政界情勢をたとえています。
螻蟻は、けらとありのこと。全体としては「千丈もある大きな堤防も、螻蛄(けら)や蟻の小さな穴から崩れ」(三省堂『故事ことわざ・慣用句辞典 第二版』)ると言っています。出典は、中国戦国時代の思想家である韓非の著書『韓非子』です。同書からはたくさんの名句が引用されていることで知られていますね。
同じような意味では「雨垂れ石を穿(うが)つ」という諺があります。「穿つ」というのは貫くということで、雨のしずくのような小さな水滴が大きな岩に穴を開けていって突き通すというのですから、長く続けることがどんなにすごい力なのかが分かります。言葉の映像がくっきりと思い浮かんできて、初めて出会った時、とても感動したのを覚えています。そして、「継続は力なり」という語が連想されて、体に沁(し)み込む思いがしました。
同義語でいえば、「塵も積もれば山となる」があります。ここから汚い部屋などをイメージするのではなく、「ごくわずかなものでも、数多く積み重なると大きなものになる」(小学館『故事成語を知る辞典』)と捉えることが大切ですね。仏教書が出典です。実は「雨垂れ.」も中国の古書から来ています。生活の中にはたくさんの故事由来の金言がなじんでいます。
では、いつが一滴(一歩)なのか。後悔は先に立ちません。気づいた「今」が、その時です。誰かが「今でしょ!」という語を流行させましたが、その通りですね。