機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」人生を豊かにする金言名句(37)

人生を豊かにする金言名句(37)local_offer

ジャーナリスト 岩田 均

病治りて医師忘る

今回のことわざは、「人は苦しい時が過ぎると、その時に助けてもらった人への感謝も恩も忘れてしまう」(三省堂『故事ことわざ慣用句辞典 第二版』)という意味。「医師」を「薬師(くすし)」に変える言い方もあるようです。

人と人との良い縁を大切にするんだよとは、いろいろなことわざが諭してくれています。「情けは人の為ならず」。いい言葉ですね。また、「袖振り合うも他生の縁」と言いますね。どちらもこの欄で紹介したことがありました。

ところで、医療関係者が書いた本を読んでいると、たまに出てくる医師の言葉に、「病気を治すのは患者自身で、医師はサポートするだけだ」という趣旨のものがあります。

例えば、19世紀に生まれた米国の生理学者W.B.キャノンは「医師の大きな務めは、患者に希望と激励を与えることである」(講談社学術文庫『からだの知恵』日本語翻訳版)と言っています。患者が持っている自然治癒力の向上を支援する役割に重点を置こうというのです。治療の施しようもない難病もありますが、キャノンは医師の役割について、「(患者の)かき乱され補強する必要のあるからだの自動調節作用を効果的にすること」と言い切ります。

これを誤解して、病気は自分自身の力で治すのだから医師や看護師は関係ない、とはなりませんね。患者にはできない医療的サポートなどをしてもらうのですから。病気が治って退院する時、患者本人も家族も、医師や看護師に対して感謝の念から自然に頭が下がるものです。

キャノンはこんなことも言っています。「生物のからだと同じように、社会組織においても、その全体と個々の部分とは相互に依存している…安定性を完成している方法の例は、われわれ一人一人のからだの構造の中に見出される」。改めて、社会とつながっている個々人の健康の大切さを考えさせられます。