人生を豊かにする金言名句(42)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
自家薬籠中(じかやくろうちゅう)の物
少し厳(いか)めしい文字が並んでいますが、ちょうど今、そうなることを願っていることがあり、思い出した成句でした。
意味は、「自分の薬箱の中にある薬のように、いつでも自分の思うままに使えるもの」(大修館書店刊『明鏡ことわざ成句使い方辞典』)です。薬籠という言葉を使っていた時代、薬は貴重なので自分が必要とするものだけを入れていたのでしょう。それで、こんな言い方が生まれたものと推測できます。今日では、置き薬(配置薬)が各家庭に浸透しているので、補充さえ怠らなければ安心です。
使い方としては、「パソコンを――とする」とか、「難曲を――として見事に弾きこなす」(ともに前出の辞典)となります。別の辞典を見ると、「すっかり身に付けた知識や技能など、思い通りに使いこなせるもの」(小学館刊『故事成語を知る辞典』)とありました。私は現在、新しいコンピューター・ソフトを相手に四苦八苦しています。そのソフトに習熟できたら「自家薬籠中の物になった!」と言えるのですが、トンネルの出口はまだ遠いようです。
出典は『旧唐書(くとうじょ)』。中国・唐の時代、宰相となった狄仁傑(てきじんけつ)には有能な高官(スタッフ)がいました。その一人が仁傑に向かって「私もあなたの薬の一つに加えてください」と願い出ました。スタッフを薬に例えて、役に立つ人材として自分も加えてもらいたいと。これに対して仁傑は、「お前はもう、薬籠中のものになっているよ」と言いました。すでに優秀さを知っているよ、欠くことができない一人だよと答えたわけです。
ちょっと考えると、「自分も認めてくれ」と進言するのは傲慢に見えます。ですが、インターネットにあった解説の一つによれば、「自分は苦い薬の方だけれど」という付言がありました。謙虚な姿勢だったことが分かります。
日頃、必ず持ち歩く薬袋があります。あらためて数えると、4種類の薬剤と2種類の保湿クリームが入っていました。これは間違いなく自家薬籠中の物です。