機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」春夏秋冬つれづれノート

春夏秋冬つれづれノートlocal_offer

ジャーナリスト 堀本和博

四季折々の季節に敏感で、その変化に親しむ日本の伝統を大事に

〈くらがりへ人の消えゆく冬隣〉 角川源義。霜月到来である。11月は7日が立冬で暦の上では冬に入る。日脚がいっそう早くなり、朝晩の冷え込みに忍び寄る気配を感じるこのごろ。

一方で山や高原の森や湖畔の林を紅く彩った華やかな紅葉が平地にも降りてきて、黄葉を金色(こんじき)に輝かせるイチョウとともに燃える秋の深まりを思う。旧暦では10月、むしろ冬近しとはいえまだ自然は秋と冬の併存する季節である。

〈木々の葉が落ち、平地にも初雪が舞い始める頃〉という小雪(しょうせつ)が22日、5千円札の顔だった樋口一葉の一葉忌が23日。下旬のこの頃でも、少し暖かさが戻り春のような日和を楽しめる年もある。「小春日和」といい、「小春」は陰暦10月の異称である。さて今年は新型コロナ禍で閉塞感に縮む心を癒してくれる、そんな穏やかな日がしばらくあるのかどうか。

小春日和については10年ほど前であるが、ある新聞社の採用試験でこの言葉が出題された。「①3月、②4月、③9月、④11月」のいずれの頃に使われる表現かを問う4択問題である。④と答えた受験者の正答率は30%ぐらいだった。

もう一つ「菜種梅雨」の時候を選ぶ「①2月、②4月、③6月、④8月」の4択問題では、②とした正答率は10%にも満たなかったというのである。

新聞社の受験者にして、このありさまだった。いまはどうであろうか。

日本の自然は四季折々の変化を美しく奏でてきた。日本人は四季の気象や風光の微妙な変化や興趣を豊かな感受性で受け止め、愛でてきた。そうした季節感と、現代人の日常生活との距離が少しずつ開いてきたのは否めない。それに伴い季節をとらえる日本語や日本文化についての理解や感受性も、次第に薄れてきたのかもしれない。

それでも、季語を織り込んで詠み込む詩であり、季節感の表現が命ともいえる俳句は依然として根強い人気を誇っている。極めて日本的に17文字に凝縮された俳句文化は、世界でも稀な詩文化で独自の位置を占めている。それは夏井いつき先生が芸能人らの句作を厳しくランク付けして指南するテレビ番組「プレバト」(TBS)が長寿の人気番組であることや句作に欠かせない歳時記の発行も継続していることでも分かろう。

四季折々の季節に敏感で、その変化に親しむ日本の伝統を大事にしていきたい。