春夏秋冬つれづれノートlocal_offerつれづれノート
ジャーナリスト 堀本和博
早々にツツジが終わり一気に若葉が目にいたいのと常磐木落ち葉の季節に
まずは5月への讃辞から。清少納言は五節句の最良月に挙げた。〈節(せち)は、五月にしく月はなし。菖蒲(さうぶ)、蓬(よもぎ)などのかほりありたる……〉と綴る。高浜虚子の娘の星野立子は〈五月来ぬ心ひらけし五月来ぬ〉と新緑に癒される心弾む季節を詠み、自由律の俳人、住宅顕信(すみたくけんしん)はただ天上を見上げて一句。〈見上げればこんなに広い空がある〉と、無限に広がる青い空にあしたへの希望を膨らませた。
もっと続けよう。歌人の与謝野晶子はその詩「五月礼讃」で、5月をこよなく愛する言葉で彩った。〈五月は好い月、花の月、/芽の月、香の月、色の月、/ポプラ、マロニエ、プラタアヌ、……〉と。「カエルの詩人」草野心平も「五月」と題した一編で、あふれる思いを表した。〈樹木や花たちの溢れるとき〉であり、〈小鳥たちの恋愛のとき〉である一方で、〈雨とうっそうの夏になるまえのひととき〉でもあるというのだ。
東京の桜の開花が史上最速の昨年と同じ3月14日だった今年は、季節が半月以上も早く進んでいる。先月の上旬、茅場町の事務所近く兜町のアイザワ証券前のツツジははや満開で、真っ白な花の小山に葉が隠れてしまっていた。住まいの東京の西郊外、調布市の公園や道路の植え込みでも、ツツジや久留米ツツジ、ツツジ皐月、皐月の赤やピンク、白の花も三分から五分咲き。例年咲き始めとなる4月下旬から末には、今年はすでに満開が過ぎて散り始めていよう。
今年の5月は早々にツツジの花が終わり、一気に鮮やかな若葉の輝きが目にいたい季節を迎えよう。一方で楠や樫、椎などはときわの緑を輝かせる中で、薫風に吹かれて多くの葉を落とす。針葉樹の松や杉も落葉劇を演ずる。初夏は晩秋とともに落ち葉の季節で、古い葉が今年の若葉にその座を譲ってフェードアウトしていく。
そのさまを「常磐木(ときわぎ)落ち葉」というが、自然界の新旧交代は何ともスムーズに行われる。枯れ葉と違い半生状態の落ち葉は重くてかさばり、片づける人には厄介ではある。それを含めて早めにやってくる身辺の庭や公園、林などの真緑のオーラに、閉塞する心身を癒していきたい。
〈朝刊とパンとコーヒー風五月〉 浅野右橘。